2009年12月31日木曜日

コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法(後編)

注:このエントリは一つ前のエントリの続きとなっています。
上記エントリを先にご欄頂くことをお薦め致します。

前編ではコロプラやラブプラス、そしてWebkinz等を例として
アトム財とビット財を組み合わせるという、
これからの時代のマーケティング手法の誕生を論じました。
ここでは、アトム財とビット財それぞれの特徴を考えつつ、
その活用方法について考えてみたいと思います。

特徴1.アトム財は複製コストがかかる、ビット財はかからない
アトム財は実際の物ですから、1個1個の製作に対してコストがかかります。
ビット財は『FREE』でも述べられているように、複製コストがかかりません。
よって、ビット財は売れれば売れるほど1個に対するコストは小さくなってゆきます。

特徴2.アトム財にはお金を払いやすい、ビット財にはお金を払いにくい
webサービスでは、ユーザー数が増えても収益化に苦労することがあります。
コロプラの例を見ると、アトム財を売るために自社のサービスを
ビット財として提供することが収益化の一助となっていることが分かります。
一部アバターアイテムの成功例などはあるものの、多くの人々は
まだビット財にはお金を払う文化は根付いていません。

特徴3.アトム財は差別化がしづらい
よく言われることですが、今の時代は高度成長期と違って
ほとんどの人が生きるために必要なものを揃えてしまっています。
このような時代では物を売るのは難しく、また多くの場合市場に競合他社が
存在しているため、各社は新機能をつけて差別化を図ろうとしています。
ビット財は企業にとって、新たな差別化を図る一つの方法となりそうです。

特徴4.ビット財のターゲットは得てして若い
ビット財、例えばコロプラやラブプラスのようなゲームに惹かれる人の多くは
30代以下の比較的若い層が多いと思われます。
対して日本の伝統企業(例えば有田焼のような工芸品)では
その顧客の年齢層は高まるばかりで、このままだと減少の一途を辿ります。
コロプラの事例でもあったように、ビット財をトリガーにアトム財を売ることで
企業は全く年齢層の違う、新たな顧客をターゲットとすることが出来ます。

特徴5.ビット財は継続利用を可能にする
これまでの通常の商品は、その商品を購入し、消費したら終わりでした。
ぬいぐるみもガムもカメラも、それを購入した後は、
ほとんどの場合、企業と顧客の関係性はまたゼロに戻ってしまいました。
しかしビット財を用いれば、企業は商品の購入後も顧客との関係性を継続し、
エンゲージメントを高めることができます。

特徴6.ビット財はストーリーを提供して世界観を広げることが出来る
ラブプラスやコアラのマーチの例から、我々はもう一つ学ぶことが出来ます。
例えばラブプラスはクリスマスケーキを「画面の中の彼女と楽しむ」という
ストーリーの中で消費させるという、新たな需要を生み出しました。
コアラのマーチでは、元々あった「まゆげコアラ見つけると幸せになる」等の
ジンクスを更に拡張し、色々なコアラを見つける楽しみを提供しました。
これらのように、ビット財はコンテンツによってストーリーや奥行き感を出し
ただの物でしかなかったアトム財を顧客にとってより意味のあるものにします。

特徴7.ビット財は広告としても機能する
これらの事例が話題になった大きな要因は、それがwebなどを介して
素早く広がっていったからであると考えられます。
特に最初の3つの事例では、始めからデジタルコンテンツの世界観が
出来上がっており、ユーザーのロイヤルティが非常に高かったため
ユーザー同士が情報を交換し、結果として売上に繋がりました。
ビット財を提供することは、広告としても効果が高いと言えるでしょう。

以上のように、アトム財とビット財には、それぞれ長所と短所があります。
これらの特徴は、どのような場合に、アトム財とビット財を組み合わせるか、
また自社のアトム財に適したビット財はどんなものなのかを考える時のヒントとなるでしょう。

では、実際にアトム財とビット財を連携させたマーケティングを企画する時、
我々はどのようにこれらを連携させれば良いのでしょうか。
前編にあった事例から考えると、現状での答えは明らかです。

前編で出て来た例のほとんどが、アトム財の購入時に紙で出来たカードやタグを付与していることが分かるでしょう。
今のところ、ビット財として提供されるのは既存のwebサービスへのログインか、
或いはARによるキャラクターの表示が多いと思われます。
前者の場合はカードに、サービス内で入力するシリアル番号が、
後者の場合はカードに、ARを出現させるためのARマーカーが印刷されています。
このカードがアトムの世界とビットの世界を繋ぐ、橋の役割を担っているんですね。

アトム財とビット財が保管しあうことでユーザーニーズを高めるという
新しいマーケティング手法は、2010年以降、更に広がってゆくものと思われます。
実際に商品を提供している企業の皆様は、ビット財の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法(前編)

以前僕はこのブログで、「コピーと共有が当たり前の時代にコンテンツでお金を取るヒント」というエントリを書きました。
これは、本やDVDなど、コンテンツのパッケージメディアを購入した際に
同じ内容のデジタルコンテンツを提供すれば良い、という提案でした。
ざっくり言えば物(アトム)を買った時のおまけとして、
無料のデジタルコンテンツ(ビット)を付ける、ということです。

実際、以前エニグモがローンチした「コルシカ」(現在は著作権関連の問題で停止中)や、
先日「ウェブ新聞を創刊する」旨を発表した北日本新聞社でも
雑誌を購入した人にデジタルデータを提供したり、
新聞を契約した人にウェブ新聞を提供したりと
同様のモデルを用いてコンテンツを提供しようとしています。

今の時代、デジタルデータの扱いやすさに慣れてしまったユーザーは
物としてのパッケージだけではニーズを満たすことは難しいように思います。
今後は物とデジタルを同時に提供することで、物の良さとデジタルの良さ、
その双方をユーザーに対して提供することが出来るのではないでしょうか。

最近、このアトムとビットを組み合わせるという手法は
コンテンツビジネスだけでなく、実際に物を販売する際にも
有効なのではないかと考えるようになりました。
今回はこれらを「アトム財」と「ビット財」と呼び、
幾つかの事例を見ながら新しいマーケティングについて考えてみたいと思います。

事例1:コロニーな生活PLUS
コロニーな生活PLUS」は、通称コロプラと呼ばれる
位置情報を利用したオンラインゲームです。
コロプラではアイテムを集めたりして遊ぶのですが、
その中には実際にその土地に行き、提携先の商品を買った時のみ
ゲーム内でももらえる、限定のお土産アイテムがあります。
仕組みとしては商品を買った際にコロカ(写真)と呼ばれるカードが貰え、
その裏に書いてあるパスワードをゲームで入力することで
ゲーム内で限定アイテムを購入することが出来るとのこと。



実店舗との連動はカードを使わない位置情報連動の形で今年3月に実験
コロカによる連動を今年の6月に開始、その後提携先の店舗を増やしながら
現在では全国29の店舗で提供をしています。
その中にはコロカによって来客数が跳ね上がった店舗も多く、
事例が日経ビジネスオンラインでも取り上げられました。

また、注目したいのはそのビジネスモデルで、これは広告のように
コロプラが店舗から先にお金を取るのではなく、
コロカの配布枚数から、実際に売れた分を把握し
その金額の15~20%を取っているということが特徴です。
システム開発やお土産のデザイン、コロカの印刷代等を考えると
これはかなり良心的なビジネスと言えるのではないでしょうか。
(コロカの仕組みについてはここギコ!さんが詳しく書いていらっしゃいます)

事例2:Merry +'mas
コロプラと非常に近い例が、今年のクリスマスに実施されました。
それがMerry +'mas(メリープラスマス)キャンペーンです。
これは恋愛ゲーム「ラブプラス」に出て来るキャラクターを
AR(拡張現実)として表示するARマーカーをカードに印刷、
このカードを実際にケーキを購入した人に配るというキャンペーンでした。



このキャンペーンでは、六本木、原宿、高円寺の各店舗で
100個ずつのケーキが用意されていましたが、
朝8時に公式サイトでケーキを販売する店舗を発表したところ
11時の開店前に各店舗で全てのケーキが売り切れるという、非常事態となりました。

事例3:Webkinz
このブログでも何度も紹介している『FREE※1ですが、
この本の第9章「新しいメディアのビジネスモデル」には
Webkinz(ウェブキンズ)というおもちゃが登場します。

これは実物のぬいぐるみを購入すると、タグについたコードを入力することで
オンラインアバターのサービスが楽しめるというものです。
調べてみたところ、これはカナダのガンツ社から2005年頃に発売され、
その後アメリカを中心に大ヒットを飛ばしたとのことでした。
著者であるアンダーソンは、ウェブキンズのビジネスモデルについて
以下のように記しています。
ウェブキンズのビジネスモデルは、「無料」と「有料」をうまく組み合している。(中略) ある意味、これは二〇世紀の経済と二一世紀の経済がうまく強調した好例だ。アトム(ぬいぐるみ)にはお金がかかるが、ビット(オンラインゲーム)はタダだ。現実世界で、ほとんどの子どもはぬいぐるみにそれほど興味を持たないが、ゲームの中で全種類の動物を集めることには夢中になる。そして、バーチャルの動物を追加する唯一の方法は、ぬいぐるみを買うことなのだ。

今までの3つ以外にも事例は存在します。
例えばTopps社の野球カードやガムメーカーWrigley社のThe 5 Mixer
ロッテが2006年に展開したコアラのマーチ@メール占いは、
アトム財を購入した際にビット財を提供するというモデルです。
これらは既存の企業が自社の製品に対して新たなる付加価値をつけるため
商品をトリガーとしたビット財を提供したパターンです。
また、先日株式会社CEREVOが発売したCEREVO CAMを始めとして、
購入することでwebサービスを使えるようになる家電もありますよね。

これらの例は、アトム財とビット財を組み合わせることで
消費者のニーズ(≒売上)を最大化する
という
新しいマーケティング手法であると言えるのではないでしょうか。
ではその手法には、具体的にどのような効果があるのでしょうか。
後編では、具体的な効果と手法について論じたいと思います。※2

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※1 今年の個人的ナンバーワン。ちなみに次点は『アイデアのちから』でした。こちらも超オススメ。
※2 実は最初のエントリではこの部分も含めて一つのエントリだったのですが、友人に「面白いけど長い」という感想を貰ったため、後から分割しました。


2009年12月29日火曜日

バーレーンの実況から考える、類似性の面白さ

ご存じの方も多いかと思いますが、一時期
「バーレーンの実況が日本語にしか聞こえない件」
という動画が流行りました。
「むっちゃ風邪ひいてん」で有名なアレですね。


僕の周りでもみんな爆笑してたのですが、
この面白さは一つパターン化出来る気がするのです。

本来であれば似ているはずの無いものが似ているように聞こえる。
きっとこの意外性が面白いのでしょう。

この面白さは、本家「空耳」も一緒ですね。


また、これは音だけでなく、ビジュアルでも同様。
本来であれば似ているはずの無いものが似ているのが面白い。

(他にも見たい方はこちら

一方で、意図された(と思われる)類似性は
オリジナリティに欠けると見なされ、嫌悪感を抱かれます。
例えばアジア諸国の模倣なんかは、しばしば非難の対象となったりします。

また、「間違い探し」という遊びは
似ているはずの無いものの中に類似を探すのと逆で、
ほとんど同じ絵の中に隠された僅かな違いを探す遊びです。

これらの差異はなんだか不思議な気がしますが、共通点を挙げるとすれば
似ているはずの無いものが似ていることを発見したり、
同じようなものの中から違うものを発見するという
クリエイティビティが感じられるものは面白く
ただ単に真似しただけというクリエイティビティが
感じられないものは面白くないと見なされると言えそうです。

「人がどういうものを面白く感じるか」というのは
webでも広告でも、何かを作るときには非常に重要な要素だと思います。
たまには面白いものを紐解いてその理由を探ってみるのもいいのではないでしょうか。

というわけで、ネタエントリでした。

2009年12月23日水曜日

スタバがコンビニのレジで1杯560円の特大コーヒーを売る方法

もう結構前になるのですが、近くのコンビニ(サンクス)で面白いものを見つけました。
それが、これです。

なんだか分かりましたか?

分からなかった方のために、もう1枚。
真ん中の赤いやつですね。


こんな感じで、男性誌のラックだけでなく女性誌のラックにも積まれています。

実はこれ、スターバックスが出してるアートブックなんですよね。
写真家は市橋織江、テーマは「スターバックスのある風景」。



カバーを取るとこんな感じ。



これってよく考えられたマーケティングだなあ、と思うのです。

例えばこれを広告だと捉えると、写真というコンテンツを皮切りに
スターバックスというブランドに対して興味を持ってもらい、買ってもらう効果がありそうです。
その時に注目すべくは、これが既存の雑誌の広告という形ではないこと。
最近「3つのメディア」という話をよく耳にしますが、その文脈で考えれば、
これは企業が所有するオウンドメディアとも言えるでしょう。
3つのメディアは何も、デジタルの世界だけの話では無さそうです。
もちろん企業の目的にはよるものの、費用対効果で見ても、
マスメディアの枠を購入するよりも売上に直接結びつく成果が得られそうです。

実はこのアートブックにはもう一つポイントがあります。
これ、一冊600円なのですが、買うとクーポンが付いており、
370円のショートサイズから560円のベンティサイズまで、好きなドリンク1杯と交換できるんです。
これは見方を変えれば、コンビニのレジでスタバのコーヒーを売っているのと同じことだと言えます。

マーケティングの4Pをご存じの方は多いと思います。
Product/Price/Place/Promotion ですね。
既存の製品やサービスの売上を伸ばそうと考えるとき、
我々はどうしても最後のPromotionの枠の中で考えがちです。
しかしスタバが今よりももっと売上を高めようとした時に取れる戦略は
何もPromotionだけではなく、Place、つまり販売チャネルを増やすという方法もあるわけです。

4つのPのうちPlaceを用いた戦略を取った事例で言うと、
有名なのはオフィスグリコの例ですが、
これからは今回のスタバのように、4つのPをまたいだ発想で
戦略を考えることがより重要になってきそうな気がします。