2010年8月19日木曜日

勝ち組メディアを作るために考えるべき、ただ一つのこと

大きく分けて、世の中には2種類の流れがあります。
風向きと、重力。

風向きというのは、日によって変わります。
南風の時もあれば、北風の時もある。
それが追い風になることもあれば、向かい風になることもある。

これに対して、重力はいつも同じ方向に働きます。
物体は全て下に向かって落ちます。
それはニュートンが発見した時から今まで変わっていません。
どんな物であっても、基本的にこの流れには逆らえません。

と、ここまでは当然ながら比喩の話なのですが、
世の中には上記のような2種類の流れがあると思うのです。
そして、前者には逆らってもいいけれど、後者には逆らわず進める方が良い。

2010年7月19日月曜日

傘のビジネスモデルが面白いと思う。

先日、とうとう、梅雨明けが宣言されました。
梅雨の間は夕方にいきなりどしゃ降りになったりして、傘が手放せませんよね。

ところで、傘ってビジネスモデルがすごく変わっていて面白いと思うんです。
そんな事を学生の時から考えていまして、昨年の梅雨の時期にもblogに書こうとして書かないまま梅雨が過ぎてしまったのでした。
今年もとうとう梅雨が明けてしまったので、急いでエントリです。

2010年7月12日月曜日

テレビ埼玉のCMが面白すぎる件

※すみません、ネタエントリです・・・。

2chのまとめサイトから辿って見たのですが、テレビ埼玉のCMが面白すぎます。


2010年6月20日日曜日

webの発明者の動画から、未来のwebを想像してみる

ティム・バーナーズ・リーという人が居ます。
World Wide Webを発明した人です。
2009年、World Wide Webの誕生20周年を記念して、ティム・バーナーズ・リーは、TEDカンファレンスで、次のwebの形についての講演を行いました。
(View subtitlesより日本語訳が見られます)

見て頂くと分かるように、これからのwebではドキュメントだけではなく、ローデータが重要になるという趣旨。

2010年6月19日土曜日

話題のGroupon(グルーポン)から、webでのプライシングについて考えてみる。

Groupon(グルーポン)という名前のサービスが話題になっています。
先月はけんすうさんが海外のwebサービスを紹介するエントリで取り上げていたり、looops斉藤さんが分析のエントリを上げていたりと、各所で注目を浴びている様子。日本でもいくつか類似のサービスが生まれています。

Grouponの成功要因、という意味ではフラッシュマーケティングの要素にあることは間違いないと思います。
ただ一方で個人的に注目したいのは実は「人を集めると割引きになる」という共同購入の要素だったりします。
以前から、僕はwebだとある条件で価格を変動させるような仕組みができそうだよなーと思っていました。
そこで今回は、共同購入を始めとした、webでのプライシング(価格付け)の可能性について考えてみたいと思います。(あくまで可能性なので、実現性についていろいろあると思いますが、お許し下さいませ!)

2010年5月9日日曜日

「世界を変えるデザイン展」がかなり面白そう。

来週の土曜日、5月15日より、東京ミッドタウンにて「世界を変えるデザイン展」が開催されます。入場無料。
発展途上国に済む人びとが直面する課題を変えるデザインをテーマに、プロダクト・プロジェクトを展示する、という企画展です。

http://exhibition.bop-design.com/               

実はこれ、友人がやっているGranmaというベンチャー企業が運営をしています。
ちょっと告知っぽくて恐縮なのですが、途上国が抱える課題について本気で考えている人達なので、応援の意味も込めてご紹介させて下さい。

2010年4月24日土曜日

Appleがwebのルールを変えようとしているんじゃないかという話

先々週、AppleからiPhone OS 4.0が発表されました。
同時に発表されたiAdなる広告プラットフォームにより、Apple経済圏がついに広告ビジネスまで押し寄せて来た、という印象です。
以下の記事にあるように、一部では発表当時から既に話題に。

iPhone OS 4.0の新機能を一覧で。モバイル広告の"iAd"の詳細も明らかに
http://techwave.jp/archives/51430260.html
ジョブズ、Googleにジャブ、iAdで傷口に塩を塗りこむ
http://jp.techcrunch.com/archives/20100408jobs-takes-a-few-pot-shots-at-google-rubs-salt-into-the-wound-with-iads/

どちらもAppleをGoogleと比較して書いていますが、上の記事にて「ウェブのグーグル VS. アプリのアップルの始まり」と書かれていたり、別のTechWaveの記事では「Facebook対抗」と書かれていたりするように、僕としてはAppleがGoogleのみならずweb全体と争う構図の方がしっくり来ます。Appleはwebのルールを変えようとしているんじゃないか、そんな風にも感じ取れるのです。
というわけでこのエントリでは、Appleが変えようとしているものについて迫ってみたいと思います。

2010年4月21日水曜日

「ソーシャルメディアとは」を、ものすごく単純に定義しておこう

ここのところ「ソーシャルメディア」バブルですね。
僕もソーシャルメディアについていくつかエントリを書きました。
ただ「ソーシャルメディア」という言葉自体も氾濫しすぎていて、定義も人それぞれ、ややもするとよく分からない感じになっています。
例えばソーシャルメディアの定義を、「ソーシャル」という部分に注目して「社会的なメディア」とした場合、「Youtubeってソーシャルメディアなの?」という問が出てきた時に、YouTubeが社会的か否かという問を建て直さなければならず、実用性は低いように感じられます。

いろんな人がそれぞれソーシャルメディアの定義を持っていること自体はとても良いことだと思うのですが、一方でもし言葉の定義を「人と会話するため」のものだと考えると、定義はいろんな人が分かりやすく、かつ現実に則したものであるべきではないでしょうか。
いずれにせよ、何がソーシャルメディアで何がソーシャルメディアでないのかは自分の中だけでも持っておくといいと思います。
というわけでここでは、現状のソーシャルメディアの性質から、かなり単純に、ざっくりした「ソーシャルメディア」の定義を考えてみたいと思います。

2010年4月15日木曜日

自炊派電子書籍ユーザーの視点からiPadの素晴らしさをレビューしてみた

どうも。ruwonです。
現在、渡米中のtadくんからついにiPadが届けられたので、日本でiPadを買おうかどうしようか迷っている方の参考になれば、という気持ちでレビューしたいと思います。
(日本での発売日は延びてしまいましたが・・・)

結論から言うと、「自炊派電子書籍ユーザーは買って間違いなし」です。
ようやっとPDFにした雑誌を外で読むのに適した端末が出たのだと断言できます。
(今まで自分は屋外での雑誌閲覧は工人舎のSCシリーズを使っていました)

ちなみに「自炊派」とは書籍なんかを裁断→スキャンして自分で電子書籍化する人たちのことです。

2010年3月30日火曜日

閉店したキンカ堂に貼られたメモが、だいぶソーシャルメディアっぽい件

何の考察も無いのですが、なんだか面白かったので軽くご紹介。
昨日(3/29)、twitterのTLにこんな記事が流れてきました。
心あったまるので是非読んでください。

閉店の手芸店キンカ堂、シャッターに感謝のメモ 池袋
http://www.asahi.com/national/update/0328/TKY201003270442.html

なんとなく思ったのですが、これってソーシャルメディアっぽくないですか?
企業に対してみんなが意見を書き込んでいる。
その書き込みがこれだけ感謝の言葉ばかりになるというのは、ソーシャルメディアマーケティングの目指すところとも言えるのではないでしょうか。
ウェブだろうとリアルだろうと、顧客に対して誠実に接していれば、ソーシャルな声は自然と集まるんだと実感させられた例でした。

2010年3月24日水曜日

ソーシャルメディアの次の形は、ソーシャルアクションプラットフォームかも

先日大手ブログの「ねたミシュラン」さんがタイヤメーカーのミシュラン社より警告を受け、サイト名とドメイン名を変更する、という出来事がありました。
個人的には、「ミシュラン」という名前を使っているにしろ企業への直接的なダメージがあるとは思えず、ドメイン停止を強要するというのはちょっと疑問を感じてしまいました。
本エントリでこのこと自体の是非を問うつもりはありませんが、もし僕のように考えている人が世間のほとんどを占めているのであれば、或いはこのことによってミシュラン社に対して嫌悪感を抱くユーザーが居るのであれば、ミシュラン社の今回の判断は本末転倒であり、間違ったものであると言えるでしょう。
そんなことを思いながら、はてブのコメント欄
こういう時に、どうにかみんなの声を集めて、企業に「その方法は間違ってると思います」って伝える方法があるといいよなあ。そういう声を上げるためのソーシャルメディアがほしい。
と書いたところ、沢山の方からスターを付けて頂いたのです。

また、前回のエントリ「ユーザー・ジェネレイテッド・プロダクト?」では、今後クラウドソーシングとギャザリングを組み合わせた仕組みによって、製造業にも変化があるのではないか、という内容を書きました。
これも、ユーザーの声を集めて形にする、という点ではミシュランの時に必要だったソーシャルメディアと同じであると言えます。

更に先日終了した経産省のアイデア・ボックスでは、ソーシャルメディアを使って国民からの意見を募るという素晴らしい実験が行われ、3週間の間に1000件近い意見が集まりました。
これもまた、ユーザーの声を集めて形にしていこう、という動きの一つだと言えるでしょう。

現在のソーシャルメディアは、みんなが意見を発信し、シェアするところまでは可能になっています。
またtwitterを始めとして、ソーシャルメディア上の出会いがリアルでも人と人を引き合わせるということもかなりの頻度で起こってきている気がします。
そしてその次の変化の一つの方向としてあり得るのは、みんなで上げた声を実現する、アクションまで持っていくためのソーシャルメディアなのではないでしょうか。
これをこのエントリでは、ソーシャルアクションプラットフォームと名付けて、考えてみたいと思います。

2010年3月21日日曜日

ユーザー・ジェネレイテッド・プロダクト?

オリヒメ」という名のバッグブランドがあります。このブランドを運営している木下さんは慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に通う、現役の大学院生の方。ブログを拝見したところ、彼女も1984年生まれだそうで、なんだか親近感を持ってしまいました。

オリヒメのサイトを見ると、「みんなで創るバッグブランド」というコンセプトになっています。このブランドの噂は以前友人から聞いていたのですが、その時聞いた話によれば、全員がノートPCを持っているSFCに通っていた木下さんが「ノートPCを入れる可愛いバッグがない」と感じたところに端を発しているそうです。これはきっと、木下さん自身がコアになるターゲットだったと思うのです。つまり見方を変えれば、ユーザーが自ら商品を作り出した、と言えるのではないでしょうか。

2010年3月17日水曜日

僕らの電子書籍のアイデア『Layered Reading(レイヤードリーディング)』が賞を頂きました。

※このエントリはコンペ受賞の際のレポートとなっております。
Layered Readingの情報のまとめ、及びコンタクトをご希望される場合はLayeredReading.comをご覧下さい。
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去る2010年3月10日、今後ますます発展を続けるモバイルプラットフォームでのアプリケーションやサービスの新しいアイデアを競う、三井ベンチャーズとティーガイア主催のビジネスプランコンテスト「i*deal Competition」の最終選考会が開催されました。

このコンテストで私たちハチヨンdialogメンバーはチーム名Project LRとして「新たな読書体験とビジネスを創出する、電子書籍のアイデア(Layered Reading)」というアイデアを打ち出し、このコンテストの最終選考会を勝ち抜き、最優秀賞とティーガイア賞(特別賞)をダブル受賞しました!

この記念すべき日をレポートさせていただきたいと思います。

2010年2月27日土曜日

これぞ未来!「第6感」という名の、見た景色をコンピュータのように扱える技術

Microsoftが作った、2019年のビジョンを示す動画を見たことがあるでしょうか。
デジタル/アナログ、ウェブ/リアルがシームレスにつながった、素晴らしいビジョンです。


個人的には「まだまだ実現されないだろうなあ」と思っていたのですが、
このほどTEDにて、紙をコンピュータのように扱ったり
情報をつまんで別のメディアに移したり、といった
上の動画のようなことが行える技術が発表されました。

それが、このSixth Senseです。
後半が圧巻なので、お忙しい方は4分50秒あたりからご欄下さい。
(「View Subtitles」より日本語訳ができます。)


プラナフ・ミストリー氏は、プロジェクタとカメラという単純な仕組みを
ウェアラブルにするだけでこれを実現してしまいました。
これはものすごいアイデアだと思います。
この方法は5年後には一つのスタンダードになっている可能性が高いのではないでしょうか。
見ているものをジェスチャーだけで情報として取り込める世界、非常に楽しみです。

2010年2月22日月曜日

「人間性」を企業が取り込む時に、twitterがなぜ役に立つのか?

一つ前の記事では、「ソーシャルメディアマーケティングは、人間性をもたらすマーケティングとして解釈すべきなのではないか」という内容を書かせて頂きました。
お陰様でtwitter経由でいろいろなリアクションを頂いたのですが、意外なことに批判意見は今のところほとんど無く、「似たようなことを考えていた」という方が多かったのが非常に印象的でした。
みんながなんとなく思っているけれど、「明確な根拠が無いから」とか「誰も言語化しないから」とかそういう理由で見過ごされがちなものって実は大事だと思っていて、その「みんながなんとなく思っている」っていうことそれ自体が時代の空気なんじゃないかとちょっと思ったりします。
さて、twitterでのレスポンスをしている中で、ひとつ書いておけば良かったと思ったことがあったので、簡単に追記。
それはタイトルにもある通り、「「人間性」を企業が取り込む時に、twitterがなぜ役に立つのか」ということです。

前のエントリで書いたように、「これからは企業でも人間性が重視される」と個人的には思っているのですが、じゃあソーシャルメディアはその手法として本当に有効なのでしょうか?
また、人間性という観点で見た場合には上記エントリで示した他のマーケティング手法と比べて、どのような点で有効なのでしょうか?
ここでは現在注目されているtwitterが一つの答えとなっているように感じたので、これを例に話を進めます。

そもそも、これまでマスプロダクトを提供するような大企業が人間性を保つことが出来なかったのは何故でしょうか。
これは前エントリにも書きましたが、企業が効率性を求めた結果であるのではないかと感じます。
人間性を出そうとすると、個人個人で対応を変えなければならないため、効率が保てなくなっていたのです。
故に企業は、マスメディアを使って一つのメッセージを大量の消費者に均一に届けることで、コミュニケーションをスケールさせていました。

ではこれが仮に、効率性と人間性の双方が両立出来るとすればどうでしょうか。
そのような方法、あるいは装置があれば、大企業でも人間性を保つマーケティング・コミュニケーションを行うことは可能であるように思います。

勿論これまででも、メールによって一人一人対応することで、デジタルでも人間性を出したコミュニケーションを行うことは可能でした。
メールマーケティングが提唱されて以来、今では多くの企業がメールを使って消費者とコミュニケーションを取っています。
しかしこの場合、メール1回のコミュニケーションで発揮される人間性は、メールの相手である1人にしか伝わりませんでした。

twitterをしている人同士のコミュニケーションではよくある例ですが、これまでメールでしていたようなやり取りを、お互いに@リプライを介してタイムライン上で行うことがあります。
場合によっては、そのやり取りを見ていた観客が会話に混じり、いつの間にか3人で会話していた、という経験がある方も多いのではないでしょうか。

企業と消費者がtwitterを使って会話する際にも全く同じことが当てはまります。
@リプライを使った、企業とある消費者との1to1のコミュニケーションはそのfollowerたちに対しても見えますから、そのレスポンスが優しく丁寧なものであれば、その人間性はほかの人達にも伝わることになります。
つまり企業がtwitterを使うことにより、1to1のコミュニケーションをスケールさせることが可能になるのです。
メールのような、閉じた1to1はそれ以上のものには成り得ません。1+1は2にしかならないのです。
しかしtwitterは、オープンな1to1を行い、これに観客が付くことで1+1が100にも1000にもなる可能性を持っています。

これがtwitterを使うことで得られる大きなメリットの一つだと思うのです。

ちなみに余談にはなりますが、効率性と人間性のバランスをうまく取るやり方は他にもあると思っていて、一つは企業の仕組みの中に人間性を組み込む、というやり方です。
例えば、いま話題になっている本に『ザッポスの奇跡』という本があります。
これは、米Amazonが買収した靴のEコマース“ザッポス”が成功した理由を、その企業文化とそこから生まれるサービスに求めて論じた本でした。
同様に日本企業では、過剰とも思えるくらい親切心に溢れた修理サービスをする任天堂が、「神対応」と呼ばれ話題となるような例もあります。

この企業における人間性の強化、というのは今後一つのテーマと成り得るのではないかと感じております。
僕もまだ全然答えは出ていないので、何かご意見や思うところある方いらっしゃれば、コメント欄やtwitterでお気軽に話しかけて下さると嬉しいです。

2010年2月20日土曜日

企業の「人間性」という観点から、ソーシャルメディアマーケティングを解釈してみる

今週の月曜日に「ソーシャルメディアマーケティング研究会」という、小さな勉強会が開催されました。
この会を主催しているのが@Ihayatoことイケダハヤトさん。
彼はお若いながらもソーシャルメディア領域に大変詳しく、そのブログで書かれる海外事情や考え方にいつも学ばせて頂いています。
僕も最近仲良くさせて頂いておりこの会にも出席したのですが、イケダさんも書いているように、会の中で「ソーシャルメディアマーケティングとは何か」という根本的な問いが話題に上りました。
僕もこれについては常々考えていたので、今回は僕の考えるソーシャルメディアマーケティングについて、簡単に書きたいと思います。

話は、戦後の復興期・高度経済成長期のころに戻ります。
この頃、人々が願うのは貧しさから抜け出すことでした。
消費者にとっては、物を買って生活が豊かになることが幸せでした。
だから、企業が物を売って人を豊かにすることは、そのこと自体が社会貢献だったと思うのです。
この頃以前に作られた企業はその理念も、自社の商品を売って広めることで社会を豊かにする、というものが多い気がします。

それが70年代、80年代になってくると人々が物を持っているのは当たり前になってきます。
そんな中で企業が物を売るためにはより良いものを作らなくてはなりません。
そしてそれが今までのものより、或いは他社のものより良いことを示すためにマス広告が活躍しました。
広告は企業の武器として活躍しましたが、その反面、一方的な企業のメッセージだけが押し出され、消費者の慣れとともに邪魔な存在へと成り下がってゆきます。

また効率性と収益性を追い求める中で、企業はいつからか人間味を失ってゆきました。
例えば何か失敗があっても自分の言葉で謝ることはせず、原稿に書かれた「遺憾に思います」という言葉とともにカメラに対して頭を下げるだけ。
このように「企業」という存在が消費者からだんだんと遠くなっていったのだと思うのです。

以上の流れの中で、人々が企業に対してまず「信用しない」という姿勢で接するようになっているのが現代なのではないでしょうか。
元々は社会に貢献するために生まれたはずの企業ですが、この事がいろいろなところに綻びを生み出しているように思います。
例えば数年前からCSRが流行しているのは、戦後とは違い、企業が消費者にものを売ることが「社会貢献」にならなくなったからであると言えるでしょう。
「社会起業」や「ソーシャルビジネス」という言葉がしきりに叫ばれるのも同じ理由だと思います。
またボランティアや寄付が最近また注目されるようになったり、「プロボノ」という概念が出てきたのは、働く側(雇用者・従業員)としても、社会に貢献しないような働き方が個人の充足感を満たせなくなっているからではないでしょうか。

そしてその波は、当然マーケティングにも押し寄せました。
近年、1to1マーケティング、パーミションマーケティング、アドボカシーマーケティング、コーズマーケティングなど、数々のマーケティング手法が輸入されています。
僕は、これらの背後に流れる考えは、みな共通しているのではないかと思うのです。
それが、人間らしさ、あるいはHumanityです。
きっとマーケティングの分野においても、企業がもっと人間味を取り戻し、消費者に対してもひとりの人間として接することが求められているのです。

例えば、チラシで「10%OFF」と書かれて200円引きになったものと、大阪のお土産屋さんでオバチャンが「お兄ちゃん頑張ってるからまけてあげるよ」と言われて引かれた200円だったらどちらが嬉しいか、どちらが心に残るかということだと思うのです。
これは間違いなく後者でしょう。
自分のことを一人の人間として扱ってくれた時の方が、「マス」を対象として均等に扱われた時よりも心に残るのは明らかです。
ちなみに前述の大阪の話は僕が学生の頃の実話で、この時同じ「値引き」や「おまけ」であっても消費者に与えるイメージはまるで変わってくるのだと感動したことを覚えています。
これが出来るか出来ないかは、顧客をリピートさせるという視点でも非常に重要です。
よく既存顧客を維持する方が、新規顧客を獲得するよりも難しいという話がありますが、その為には企業に対して信頼性を持ってもらう必要があるわけです。


僕は、以上のような文脈でソーシャルメディアマーケティングも解釈すべきであると思っています。
ソーシャルメディアを使ったマーケティングは「対話」や「関係性づくり」が目的だという話をよく聞きます(勿論そう考えない方も居ます)。
しかしこの「対話」や「関係性」のコアとなる部分は、「企業は信用しない」と殻に閉じこもっている消費者の殻を破り、「消費者に信用してもらうこと」なのではないでしょうか。
人と人とがつながるソーシャルメディアが、人と企業をつなぐ為にも使われる、というのは非常に納得感があります。

ソーシャルメディアの中でも現在注目されているtwitterでは、事例が増えるにつれて、botなどを使うのではなく担当者が一人の人間として呟く、という使い方が増えてきているように思います。
中でもフランクに消費者と会話するような企業アカウントを、これまでのお硬い企業の公式(硬式)アカウントに対して、一部では「軟式アカウント」と呼ばれ始めています。
これはすぐに売上に繋がるかと言えばほとんどの場合そうではありません。
まさに、「消費者に信用してもらうこと」を目的としてtwitterを活用している事例です。
軟式アカウントの柔軟な人間性は、非常に興味深く、可能性がある気が個人的にはするのです。

確かに現段階では、大企業の中でソーシャルメディアを使っていくためには、これまで示したような「人間性」などという曖昧な理由では難しいかもしれません。
売上目標などの明確な理由が無ければ、会社としての許可が下しにくいという意見もあるでしょう。
また「ソーシャルメディア」という定義もまだ人によって違ったり、使うサービスによっても戦略が全く変わるなど、理解しにくい側面があることも否めません。
しかしそれでも、ソーシャルメディアの利用を検討する最には、そんな企業の人間性の部分を考えてみてもいいんじゃないかと思うのです。
いまソーシャルメディアの利用を検討している方には、是非そんなことも考えて、より人間らしい方法でソーシャルメディアを利用して頂けることを願っています。

2/22追記
「人間性」を企業が取り込む時に、twitterがなぜ役に立つのかを別エントリで追記しました。

2010年2月13日土曜日

文化庁メディア芸術祭のBraun Tube Jazz Bandがモノ凄い。

休日の木曜日に行って参りました、文化庁メディア芸術祭。
今年も面白かったです。
その中で、個人的に断トツで面白いと思った作品がありました。
是非いろんな人に見に行ってほしいので、紹介します。
それが、Braun Tube Jazz Band

Braun Tube Jazz Bandは「Band」という名前からも分かるように、
演奏することで完結するインスタレーションです。
ただ、この時に演奏する「楽器」が非常に面白いのです。
楽器は、以下のようにブラウン管テレビを並べて構成されています。



演奏に使用するのが、真ん中にある8つのテレビ受像機。
これらの画面を叩くことで様々な音を出し、ティンパニやドラムのように音を奏でます。



ブラウン管テレビの画面を叩いて何故音が出るのか。
その仕組みこそが、Braun Tube Jazz Bandの最たる特徴となっています。

仕組みはまず、音階やドラムの音を音源として、サウンド出力します。
これをブラウン管テレビの映像端子に入力。
すると、テレビにいわゆる砂嵐のような、白と黒の模様が浮かびます。
これが録音された音をそのまま映像化したものとのことです。
演奏者はギターアンプに繋がれたシールドを身体に直接触れさせた状態で
テレビの画面に触れることで、映像信号を身体を通して再度音声信号に戻します。
この音がアンプから出ることで演奏が成立するようになっているのです。
(説明があまりうまく出来ないので、詳細は作者である和田永さんのオフィシャルブログでどうぞ。)

実はこの和田さんは、昨年もOpen Reel Ensembleという作品で受賞をされています。
こちらは昔ながらのオープンリールを用いて、DJさながら
回転を制御・調節することで音楽を奏でるというものでした。

しかし、個人的には今年のBraun Tube Jazz Bandの方が好きです。
打楽器やティンパニを演奏する様子が頭の中に既に思い描ける僕たちは
「ブラウン管テレビを叩いて音を出す」という非常に似た動きで
有り得ないことが起こっているそのギャップに驚きを感じます。
この身体性にこそ、作品の面白さがあるのではないかと僕は思います。
Open Reel Ensembleの場合は頭で考えて「なるほど、凄い」という感じでしたが
Braun Tube Jazz Bandは見た瞬間に直感的に「すげー!!!」という感じでした。

もう、読んでいる人は途中から何言ってるか分からないと思いますが
是非足を運んで、観に行って、聴いてみて下さい。
びっくりすること請け合いですから。
文化庁メディア芸術祭は、明日14日まで国立新美術館にて開催中です。


2010年1月30日土曜日

iPhoneやiPadがどうしてもシングルタスクな理由

今週、Appleのタブレット端末iPadが発表されましたね。
色々な人が色々な事を言っていますが、iPadに対してもマルチタスク非対応を嘆く声が非常に多いことをtwitterやblogの反応で知りましたので、今日はなぜiPhoneやiPadがシングルタスク志向なのか、という話をしようと思います。

iPadといえば、発表直前のGizmodoの予想記事に、かつてAppleの開発者でありMacintoshプロジェクトを立ち上げたジェフ・ラスキンのモーフィング・コンピュータについての紹介が載っていました。
「AppleタブレットのUIはズバリこうなる!(動画&予想図)」すごくいい記事で、とても楽しく読ませていただきました。

iPhone/iPadのシングルタスクへの執着には、「マルチタスク汎用機」ではなくて、「必要な時にいろんな専用機に変身できる多機能機」という基本的な設計思想があると思います。ここを理解しておくと、なぜわざわざマルチタスクを制限するようなことをしているのか、分かりやすくなると思います。

昔からコンピュータ業界では専用化か汎用化かという議論がありました。ジェフ・ラスキンが活躍していた当時はコンピュータの使い勝手がこれでもかというぐらい悪く、またコンピュータを小さくできる技術が見えていた頃だったので、デザインの方向性が用途への最適化かそれとも汎用化か、というところで分かれていたのはすごく納得できます。デザイナー側から見ると、汎用機としての性能を重視することは闇雲に計算性能を向上させることに見えますし、テクノロジストから見ると、技術が未熟な状態では製品のコンセプトがよくても真価を発揮できずに「早すぎた」と言われてしまうことはとても歯がゆいでしょう。

実際の時代の流れをマクロに見たときには、汎用化思想と専用化思想は車の両輪のようなものです。コンピュータは汎用的な性能を上げつつ、ところどころで専用的に道具に組み込めるものは組み込んで用途を最適化していく、という進化の仕方をしています。音楽プレイヤーやカメラ、自動車なんかはサイズ的にも無理なくコンピュータが組み込まれた例と言えます。

今は昔よりいっそうコンピュータを小さくできるようになりましたが、シリコンバレーの回路設計の技術者に話を聞いてみると、たとえば回路基板やCPU設計の効率化はある程度の限界も見え始めているらしいです。ムーアの法則も無理だ無理だと言われ続けながら今まで何度も乗り越えてきましたが、本当に今度こそ、今のアーキテクチャでは物理的な小型化の限界が見え始めてきた。つまり汎用機としての計算性能向上の道は、終点がちょっとずつ近づいているという風にも言うことができます。

そんな時、画面の中ではとんでもなく自由にインターフェイスデザインができて、多すぎもせず少なすぎもせず、必要な時には出すけど普段不要なものは隠せる、タッチパネルという方式がでてきました。でてきたというか、iPhoneがタッチパネルの正しい使い方を教えてくれました。

多機能でありながら、それぞれの用途に対しては専用機のような振る舞いを見せる。Appleが出したこの回答によって、長きにわたって続いた「専用機でユーザビリティを高める」VS「汎用機でケーパビリティを高める」の論争には終止符が打たれるかもしれません。少なくとも、一般ユーザに対しては。

タッチパネルは物理的フィードバック(クリック感など)が無いことが操作上の難点でしたが、クリック音やバイブレーションのような疑似フィードバックではなく、画面自体を浮き上がらせて触覚フィードバックを持たせる技術が徐々に出てきています。(これは視覚障害者用の物理ディスプレイデバイスの開発によって研究が進んだ技術と言われています。)触覚フィードバック付きタッチパネルについては
アップルも特許を出願しています。

また、とんでもなく自由なインターフェイスデザインを二次元だけでなく三次元で実現しようという研究もあります。

Nokiaはナノスケールで自在に変形するMorphという携帯電話コンセプトを発表しています。



Intelでは、Programmable Matterという小さな粒をプログラミング可能にして立体物を自在に変形させる技術が大まじめに研究されています。


少しずつではありますが、コンピュータを組み込んだ製品に、道具として物質性とか身体性を考慮したデザインが入る余地が増えてきています。単なる専用化でも単なる汎用化でもなく、「汎用品なんだけど、その都度形を変えて用途に最適化する」という、両立の形が見えてきたような感じですね。それがモーフィングコンピュータという概念です。
iPhoneやiPadのことを二次元モーフィングコンピュータだと考えてみると、iPhoneやiPadがなかなかマルチタスク機構を採用しない理由が少し分かっていただけるのではないでしょうか。


昨年はセカイカメラも大いに話題となりました。3D映像やAR技術のように、実際にはそこにないものをあるように見せる、疑似的な物質感を出す技術も発達してきていますね。道具のデザインの未来では、「アナログ」と「デジタル」はいつか区別のないものになり、「物質」か「非物質」かという区別をするようになるはずです。

ARについても、シリコンバレーにいると色々と見えるものがあります。この技術のトレンドについても、また近々レポートしたいと思います。

2010年1月25日月曜日

webマガジン『84ism』の立ち上げと、メディアの趣味化について。

既にひととおりtwitterで話題になったようなので乗り遅れた感満載ですが、一応告知。
1月23日、@shoshirasakaという友人を中心にして、1984年生まれの人たちによるwebマガジン『84ism(ハチヨンイズム)』を立ち上げました。
84ism(ハチヨンイズム) 育ち続ける等身大ウェブマガジン
http://84ism.jp/

ちなみに@shoshirasakaは、ブログパーツ「ざわざわ化ボタン」やピューと吹くジャガーのジャガーさんbotを作ったヘンテコで面白いデザイナーさん。
僕は行けなかったのですが、23日土曜日には84年生まれを集めて創刊パーティーもやったみたいです。

僕は「ウゴクコウコク(動く広告)」というコラムのライターとして参加中。
街やwebで見かけた「人を動かす」面白い広告や、今の時代に「動いてゆく」広告の変化を書いていく予定です。
位置づけとしては、こちらのブログが広告やweb、メディアに元々興味がある人に向けて書いているのに対し、あちらはいろんな人に見て頂けるような分かりやすいものを書きたいなと。
もしかしたら内容が被ることもあるかと思いますが、そのあたりはご簡便。
ちなみに第1回目のテーマは、1984年生まれの人のメディアということで、AppleのCM「1984」を取り上げました。
是非こちらの記事、読んでみて下さいな。

さて、創刊についてはtwitterでは既にある程度話題になった感があるので、今回は僕がこのwebマガジンが面白いと思った2つの理由についてちょっと書いてみたいと思います。


1.同年代という切り口
普通メディアというと、趣味や嗜好が似た人たちをターゲットとして●●についてのメディア、という考えになるかと思います。
こうなりがちな一つの理由は、メディアは広告を取らなければやっていけないという前提があるからではないでしょうか。
後述しますが、広告を取ること、つまりお金儲けを目的にしない場合はこのルールを破ることが出来ます。

対して今回の世代カットのメディアは、ジャンルを固定する必要が無くなります。
つまり、デザイナーも広告屋さんもメーカーに勤める人もフリーターも経営者も主婦も鳶職も、「1984年生まれ」というタグを持っている人であれば全部一緒くたに語ることが出来るわけです。
だから編集長の@shoshirasakaとか副編集長の@eshintaroとかと最初に話していたのは、「これって学校だよね」という話でした。

今でこそ僕らは広告とかwebとか、自分と近い興味の人達で固まりがちですが、公立の小中高校って、かなりいろんな人種(という表現が正しいか分かりませんが)が混じり合っていたと思うのです。
だからこそ他人と比較して色々なコンプレックスを感じたりそれを直そうとしたりしますし、苦手なタイプも含めて全然違う人からいろんな影響を受けていたはずです。
いま大人になって振り返ると、そういう場所って結構必要なんじゃないか。
無いものねだりかもしれませんが、そんな風に思ったのです。
だからここを学校としてもう一度いろんなタイプの人が集まって、その中の出会いから人生の方向性が180°変わる人とかが出てきたら面白いなーと思います。

また「生まれた年が同じ」という切り口でのメディアであれば、サブタイトルにあるようにメディア自体が「育つ」ことが出来ます。
つまり、25歳の時は25歳の時に考えることを共有でき、30歳では30歳、60歳では60歳と、僕らが育つと同時にメディアの存在意義も変わる。
これも今までは有り得なかった、非常に面白い特性であると思っています。

2.趣味としてのメディア
最初に僕がこの話を聞いてmtgに顔を出した時に、最初に聞いたのが「儲けるのって目的?」でした。
答えはNOでした。その瞬間、「参加したい!」と思いました。

これまでメディアを運営している人達の多くはお金儲けが目的でした。
もう少し詳しく言うと、これまでは制作や運営にコストがかかるからお金が儲からない限りは立ち上げることが難しかったわけです。
これが今、状況がかなり変わってきています。

僕たちがこのメディアについての話をする時、目標としていた一つのメディアがありました。
それが、東京ナイロンガールズでした。
このメディアもやはり、運営メンバーの方々はこれ以外の仕事を別に抱えています。
今でこそ広告も入っているものの、このメディアは「収益化出来なくても別にいい」ものだと思うのです。
このスタンスは自分たちのやりたいことを追求できるという意味で、本当に魅力的だし、もっとそういうメディアが増えたらいいと思った。
それで僕たちも84ismというメディアを作ったのでした。

趣味としてのメディアという話であれば「それってブログと同じじゃん」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし一つ、圧倒的に違うことがあります。
それが「編集権」です。

これまでのブログでは「執筆」という行為を一般のユーザーに降ろすことには成功しました。
でも「編集」はまだどうしても、マスメディアの特権という印象があります。
僕が考えるに、この「編集権」も今後一般ユーザーが普通に持てるものとなると思うのです。
(編集については色々思うことがあるので、この考察はいつかまた書きたいです)


今後こういったメディアの運営は益々ふつうの人たちが趣味として、或いは兼業として行うことがきっと増えて行くでしょう。
音楽を奏でたり絵を描いたり写真を撮ったりすることが趣味として行われるのと同様、執筆や編集というクリエイティブな行為ももっと一般的になってよいと、僕は思います。
そもそも僕たちの世代あたりから、大学生がフリーペーパーを作るというのが流行りだしており、「自分たちでメディアを作り、持つ」ということは当たり前になり始めています。
いわゆる「普通」の人達がメディアを持ち、それが既存メディアと競合すれば、既存メディアはもっと良いものを作らなければいけなくなるはずです。
これは非常に健全で、面白いことではないでしょうか。

というわけで84世代の皆さんは、是非参加してみて下さい。
またそれ以外の方々も、趣味のメディア、立ち上げてみてはいかがでしょうか。

2010年1月23日土曜日

2010年ソーシャルメディアマーケティングで勝ち抜くために重要な4つのこと

2010年のソーシャルメディアマーケティングに関する予測ついては、多くのメディアやBlogで情報が発信されていますが、企業が本当に成功するためには、4つの主要なポイントに注力する必要があると、元Forrester Research、ソーシャルコンピューティング担当で現在グランウェル著者のCharlene Li(シャーリーン・リー)率いるAltimeter GroupJeremiah Owyang(ジェレマイヤ・オウヤン)は指摘しています。以下にそれを紹介したいと思います:



1) テクノロジーやツールにばかり気を取られてはいけない (Don’t fondle the hammer)

関係を構築したい顧客を理解し、達成すべき本質的な目的に注力することが重要であって、変化の激しいテクノロジーやツールを基軸とした戦略を立ててはいけない。

企業は必ず最初に顧客理解から始めて、本質的な達成すべき目的の明確化、ゴールを設定する必要がある。

最終的に理想的な家(ゴール)を建てることが目的であって、どんなハンマー(ツール)を使うかは大事ではない。




→テクノロジーは常に変わりますが、それを利用する「人」は変わりません。最近では「Twitterマーケティング」とか、トレンドに乗ってお金を稼ごうとする人たちによる、テクノロジー主導の危ういソーシャルメディアマーケティングが説かれていますが、その解釈を誤ると、長期的に有効な施策にはなりえなくなります。

MITメディアラボの石井裕教授はいつも説いていますが、テクノロジーの寿命は1年、アプリケーションは10年と短いけれど、その根底にあるヴィジョンは100年です。これはソーシャルメディアを活用したマーケティングにも、もちろん製品開発、ビジネスモデルの構築など、すべてのことに言えると考えます。



【追記 2010/1/24 16:20】
かつて、アカウントプランニングの思考を日本に取り入れた、青山学院大学教授の小林保彦教授と資生堂の福原名誉会長との対談の中で、このポイントをよく理解させてくれる言葉を思い出しましたので、以下に引用します:

「大事なことは、会社は一体何を考えているのか、次に何をしたいのかということをきちっと会社の中で決めておくことです。そうすれば、あとはどんなプロセスを使おうと、どんなツールを使おうと、あるいは広告の費用対効果といった分析をやろうと、それはもうごく細部の問題になりますね。しかし、いまの現状は費用対効果の分析の方から始まって物事が考えられている。逆のことをやっているんです。」(日経広告手帖、2004年2月号「広告とは経営だ! IMCを考える)より)

2) 80%ルールを実行する (Live the 80% rule.)

ソーシャルメディアマーケテイングで得られる成功の80%はそれを実行するための準備によるものであり、残りの20%はどのツールやテクノロジーを使うかである。

成功の80%を獲得するためには、全社的に正しい組織体制の整備、適切なプロセスの構築、そして役割の振り分けと人材配置など、企業側の運用体制を整えておく必要がある。



→例えば、企業がTwitterアカウントを運営している場合、メッセージをくれたユーザーへの返信内容について、いちいち上司の承認をとっていては、成功しない。Co-Tweetなどのクライアント等を活用しつつ、リアルタイムに対応できるようにある程度の権限委譲は必要だと考えます。昔IBMがIMC(統合マーケティングコミュニケーション)を率先して取り入れたとき、IMCリードを配置して、組織の整備と統合、社内への啓蒙活動を行ってきたように、実際に日本のマイクロソフト社でもクマムラゴウスケさんのようなソーシャルメディアリードが現れてきています。今のところこういった取り組みは外資系企業が中心かもしれませんが、今年からはサイズに限らず、日本企業でもソーシャルメディアを理解した社員に社内向けソーシャルメディアポリシーの策定を進めさせ、そのままソーシャルメディアリード的役割を任せるという流れがでてくるのではないでしょうか。


3) 顧客はどの部門の人と接しているのかなど気にしない (Customers don’t care what department you’re in. )

顧客は自信の問題が解決したいのであって、それに対応する人の部署がどこかなど気にかけません。しかし、ほぼすべての部署の人がソーシャルメディアツールを使って、顧客と直接コミュニケーションをとることができます。そのため、企業としてホリスティック(全体的)な一貫性のある経験を提供する必要があります。顧客に対してどのようなブランド体験を与えているのか、ブランドモニタリングやコミュニティツール、CRMシステム等のそれぞれのデータの調査をする必要があります。


→同じく、昔IBMでは事業部ごと、地域ごとに70を超える広告会社と契約し、好き勝手にロゴを変更してブランドイメージの分散が進み、結果としてブランド価値低下の危機的状況に陥ったことがありました。同一組織が外部へ発信するメッセージには一貫性を持たせる必要があるというのは誰しも理解できるものの、当時はそれができていませんでした。

現在、そこまで大変な状況に陥ることが無かったとしても、部署によってはその部署内の文化が異なるために、顧客への対応方法も変わってしまう可能性は否めません。どうしても、組織内の分業化により、それぞれの部門の目的に差異があるために、セールスの担当者とカスタマーサーポートの担当者ではそれぞれの異質の人間が構成されていきます。ソーシャルメディアで直接コミュニケーションを取る、あるいは情報を発信する人のみならず、全員が自社の根本的な企業理念、ミッション、社会における役割を明確に理解しておく必要があります。

参考:実践コーポレートブランド B2CブランディングとB2Bブランディングの違い

4) リアルタイムウェブは進んでも、企業は"リアルタイム"にはなれない (Real time is *not* fast enough. )

企業はソーシャルメディアの拡大と比例して対応することはできません。多くの企業は顧客と会話したり、顧客の声を聞くためにモニタリングを担当する人材を十分に雇うことができません。その結果、ブランド支持者を「無償の兵隊」として頼り、モニタリングツールなどを活用した傾聴によって顧客のニーズを期待するようになります。


→米国版のGoogle、Bing、Yahooでは、通常の検索結果にTwitterの「つぶやき」を含めるテストを行っています。これまでは、基本的にTwitterのコミュニティ内に限られていた情報が、今後検索エンジン側が検索結果に Twitter のデータを取り込んでいくことにより、特定のブランド名を検索したユーザーに対しても表示されてしまうことになります。仮にTwitterというサービスを知らなくても、ここで発信された不特定多数の人からの情報を検索エンジン経由でリアルタイムに知ることになります。

前置きが長くなりましたが、彼は企業にとっては良くも悪くもリアルタイムに情報を発信できるようになった今、その対応策を講じることは急務だといいます。とはいえ、様々な事情によりそんなに迅速に動けるわけはないので、今いる人たちでなんとかするしかなく、結果的に自社のファンたちの活動に任せることになると示します。つまり、グランズウェルで語られているフレームワークの「傾聴」に留まるということです。

米Citibankの調査等でも明らかになりましたが、現実的には、米国であってもまだ多くの企業がソーシャルメディアに投資できる状況ではなく、先進的な大企業を除いて、なんとかみんなでがんばってやっている、というところが多いようです。

現在、予算が絞られて思うような施策の実行ができないにしても、ブランドモニタリングできるフリーツールはWeb上にたくさんありますので、まずそれを使いながら、顧客がどんなテクノロジーを使う傾向が多いのか、また、どういったニュースや商品、企業側の対応に反応するのかなどを観察して、少しづつ歩み寄る努力をすることから始める必要があります。



全体を通して、もちろん、"ざっくりとしている"、ということを認識していますが、海外でもソーシャルメディアという新しいビジネスチャンスに群がる企業や個人が急増して、あらゆる情報が氾濫し、部分的に混乱が起きている状況をもう一度見つめ直すために、この領域でパイオニア的存在を確立しているAltimeter Groupが本当に重要なことを今一度考えてもらえるように、改めてこの情報を発信したのだと思料します。私自身も今年は日本におけるソーシャルメディアとの付き合い方について、倫理的/本質的なアプローチを模索し、情報を発信していきます。


2010年1月17日日曜日

Suicaコインロッカーで見えた、アトムのメリット

昨年暮れの31日、コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法というタイトルで、前後編にわたるエントリをアップしました。
内容はアトム財(実際の物)とビット財(デジタルコンテンツ、サービス)を組み合わせることで、ユーザーニーズを最大化することが今後肝要になってくるだろうというもの。
アップしたのが大晦日だったのが悪かったのか、最初は読んで下さる方やブクマ数も少なかったのですが、年明けには@yukawasaさんがご紹介して下さったのを皮切りに、色々な方に読んで頂けたようで大変嬉しかったです。有難うございました。

上記エントリの後編では主にアトム財の短所と、ビット財の長所がそれをいかに補うかという話を書きました。
今回もアトムとビットの話なのですが、今回はこれまでアトムであったものがビットに取って変わられた事例を題材に、アトムの良さやメリットを考えてみたいと思います。
その題材が、タイトルにもある「Suicaコインロッカー」です。


JR山手線を使う人には結構馴染み深いかと思いますが、「Suicaコインロッカー」はその名の通り、Suicaを使って借りることが出来るコインロッカー。
もちろん支払いもSuicaで可能ですが、ポイントはSuicaが鍵になること。
鍵というアトムだった部分をSuicaというビットに置き換えたんですね。

SuicaのようなFelicaカードが鍵になること自体は今やさほど珍しいことではありません。
社会人の方々には社員証が鍵を兼ねているという方は大勢いらっしゃるでしょうし、
学生でも最近は学生証にFelica機能が付いていることも珍しくなくなりました。
ですから、コインロッカーでも鍵がSuicaになるというのは一見便利な気がします。
また、製造元であるアルファロッカーシステム社の製品案内を見ても、ビットだからこそ可能になった機能が盛り込まれています。

それでも僕が実際にこのコインロッカーを使おうとした時、2つの点で不便さを感じたのでした。

空いているロッカーが分かりにくい
普通のコインロッカーであれば、開いているロッカーには鍵が刺さっています。
当然です。だってロッカーを使っている人は鍵を持ち歩いているんですから。
これが、Suicaロッカーだと、こうなります。



どこのロッカーが空いているか分かりますか?
一応一つ一つのロッカーにはランプが付いており、その点灯によって空き状況が分かるようになっているのですが、ランプが小さいこともあり、遠くから見た時にはほとんど分かりません。
これなら鍵が付いている方が分かりやすいですね。

荷物を預けたことを忘れやすい
これは、僕が最初にこのSuicaコインロッカーに荷物を預けた時に実際にあったのですが
目的地に向かう途中に荷物を預け、その後帰りにロッカーで荷物を取り忘れてしまったのです。
これは単純に自分が忘れやすいことが原因と言われてしまえばそれまでなのですが(苦笑)、
普段ロッカーに荷物を預けた時には僕は必ず左ポケットに鍵を入れるんですね。
で、その鍵がポケットに入っているという感覚に頼っていたわけです。

結局荷物は次の日に取りに行って事なきを得たのですが、
このような事が頻繁に起こるようではコインロッカーとしてはあまり良い結果とは言えません。


さて、Suicaコインロッカーに関するこれらの経験は、扉を開けるためだけでなく、
空き状況のサインとリマインダという、我々が今まで意識していなかったアトムとしての鍵の役割
を顕にしたと言えます。
今後、これまでアトムであったものがビットに置き換わる事例は増えて行くことが予想されますが、
その際にはこういった「その状況においてアトムが果たしている二次的な役割」についても考えなければならないでしょう。
この役割を考えた上で、それでもビットに置き換えるメリットがあるのかどうか。
或いはそのメリットがあるのであれば、二次的な役割も同時にビットに置き換えることが出来ないか。
これらを考えることが重要です。

ちなみに、最初にSuicaコインロッカーを僕が使ったのはもう2年以上前のことなのですが
僕は、その後Suicaコインロッカーをほとんど使っていません。
結局普通のコインロッカーの方が使いやすいんですよね。

ビットというのはあくまでも手段であり、これを使うことが目的ではありません。
技術先行ではなく、ビットを使う意義をよく考えた上で活用して行く必要がありそうです。