1) テクノロジーやツールにばかり気を取られてはいけない (Don’t fondle the hammer)
関係を構築したい顧客を理解し、達成すべき本質的な目的に注力することが重要であって、変化の激しいテクノロジーやツールを基軸とした戦略を立ててはいけない。
企業は必ず最初に顧客理解から始めて、本質的な達成すべき目的の明確化、ゴールを設定する必要がある。
最終的に理想的な家(ゴール)を建てることが目的であって、どんなハンマー(ツール)を使うかは大事ではない。
→テクノロジーは常に変わりますが、それを利用する「人」は変わりません。最近では「Twitterマーケティング」とか、トレンドに乗ってお金を稼ごうとする人たちによる、テクノロジー主導の危ういソーシャルメディアマーケティングが説かれていますが、その解釈を誤ると、長期的に有効な施策にはなりえなくなります。
MITメディアラボの石井裕教授はいつも説いていますが、テクノロジーの寿命は1年、アプリケーションは10年と短いけれど、その根底にあるヴィジョンは100年です。これはソーシャルメディアを活用したマーケティングにも、もちろん製品開発、ビジネスモデルの構築など、すべてのことに言えると考えます。
【追記 2010/1/24 16:20】
かつて、アカウントプランニングの思考を日本に取り入れた、青山学院大学教授の小林保彦教授と資生堂の福原名誉会長との対談の中で、このポイントをよく理解させてくれる言葉を思い出しましたので、以下に引用します:
「大事なことは、会社は一体何を考えているのか、次に何をしたいのかということをきちっと会社の中で決めておくことです。そうすれば、あとはどんなプロセスを使おうと、どんなツールを使おうと、あるいは広告の費用対効果といった分析をやろうと、それはもうごく細部の問題になりますね。しかし、いまの現状は費用対効果の分析の方から始まって物事が考えられている。逆のことをやっているんです。」(日経広告手帖、2004年2月号「広告とは経営だ! IMCを考える)より)
2) 80%ルールを実行する (Live the 80% rule.)
ソーシャルメディアマーケテイングで得られる成功の80%はそれを実行するための準備によるものであり、残りの20%はどのツールやテクノロジーを使うかである。
成功の80%を獲得するためには、全社的に正しい組織体制の整備、適切なプロセスの構築、そして役割の振り分けと人材配置など、企業側の運用体制を整えておく必要がある。
→例えば、企業がTwitterアカウントを運営している場合、メッセージをくれたユーザーへの返信内容について、いちいち上司の承認をとっていては、成功しない。Co-Tweetなどのクライアント等を活用しつつ、リアルタイムに対応できるようにある程度の権限委譲は必要だと考えます。昔IBMがIMC(統合マーケティングコミュニケーション)を率先して取り入れたとき、IMCリードを配置して、組織の整備と統合、社内への啓蒙活動を行ってきたように、実際に日本のマイクロソフト社でもクマムラゴウスケさんのようなソーシャルメディアリードが現れてきています。今のところこういった取り組みは外資系企業が中心かもしれませんが、今年からはサイズに限らず、日本企業でもソーシャルメディアを理解した社員に社内向けソーシャルメディアポリシーの策定を進めさせ、そのままソーシャルメディアリード的役割を任せるという流れがでてくるのではないでしょうか。
3) 顧客はどの部門の人と接しているのかなど気にしない (Customers don’t care what department you’re in. )
顧客は自信の問題が解決したいのであって、それに対応する人の部署がどこかなど気にかけません。しかし、ほぼすべての部署の人がソーシャルメディアツールを使って、顧客と直接コミュニケーションをとることができます。そのため、企業としてホリスティック(全体的)な一貫性のある経験を提供する必要があります。顧客に対してどのようなブランド体験を与えているのか、ブランドモニタリングやコミュニティツール、CRMシステム等のそれぞれのデータの調査をする必要があります。
→同じく、昔IBMでは事業部ごと、地域ごとに70を超える広告会社と契約し、好き勝手にロゴを変更してブランドイメージの分散が進み、結果としてブランド価値低下の危機的状況に陥ったことがありました。同一組織が外部へ発信するメッセージには一貫性を持たせる必要があるというのは誰しも理解できるものの、当時はそれができていませんでした。
現在、そこまで大変な状況に陥ることが無かったとしても、部署によってはその部署内の文化が異なるために、顧客への対応方法も変わってしまう可能性は否めません。どうしても、組織内の分業化により、それぞれの部門の目的に差異があるために、セールスの担当者とカスタマーサーポートの担当者ではそれぞれの異質の人間が構成されていきます。ソーシャルメディアで直接コミュニケーションを取る、あるいは情報を発信する人のみならず、全員が自社の根本的な企業理念、ミッション、社会における役割を明確に理解しておく必要があります。
参考:実践コーポレートブランド B2CブランディングとB2Bブランディングの違い
4) リアルタイムウェブは進んでも、企業は"リアルタイム"にはなれない (Real time is *not* fast enough. )
企業はソーシャルメディアの拡大と比例して対応することはできません。多くの企業は顧客と会話したり、顧客の声を聞くためにモニタリングを担当する人材を十分に雇うことができません。その結果、ブランド支持者を「無償の兵隊」として頼り、モニタリングツールなどを活用した傾聴によって顧客のニーズを期待するようになります。
→米国版のGoogle、Bing、Yahooでは、通常の検索結果にTwitterの「つぶやき」を含めるテストを行っています。これまでは、基本的にTwitterのコミュニティ内に限られていた情報が、今後検索エンジン側が検索結果に Twitter のデータを取り込んでいくことにより、特定のブランド名を検索したユーザーに対しても表示されてしまうことになります。仮にTwitterというサービスを知らなくても、ここで発信された不特定多数の人からの情報を検索エンジン経由でリアルタイムに知ることになります。
前置きが長くなりましたが、彼は企業にとっては良くも悪くもリアルタイムに情報を発信できるようになった今、その対応策を講じることは急務だといいます。とはいえ、様々な事情によりそんなに迅速に動けるわけはないので、今いる人たちでなんとかするしかなく、結果的に自社のファンたちの活動に任せることになると示します。つまり、グランズウェルで語られているフレームワークの「傾聴」に留まるということです。
米Citibankの調査等でも明らかになりましたが、現実的には、米国であってもまだ多くの企業がソーシャルメディアに投資できる状況ではなく、先進的な大企業を除いて、なんとかみんなでがんばってやっている、というところが多いようです。
現在、予算が絞られて思うような施策の実行ができないにしても、ブランドモニタリングできるフリーツールはWeb上にたくさんありますので、まずそれを使いながら、顧客がどんなテクノロジーを使う傾向が多いのか、また、どういったニュースや商品、企業側の対応に反応するのかなどを観察して、少しづつ歩み寄る努力をすることから始める必要があります。
全体を通して、もちろん、"ざっくりとしている"、ということを認識していますが、海外でもソーシャルメディアという新しいビジネスチャンスに群がる企業や個人が急増して、あらゆる情報が氾濫し、部分的に混乱が起きている状況をもう一度見つめ直すために、この領域でパイオニア的存在を確立しているAltimeter Groupが本当に重要なことを今一度考えてもらえるように、改めてこの情報を発信したのだと思料します。私自身も今年は日本におけるソーシャルメディアとの付き合い方について、倫理的/本質的なアプローチを模索し、情報を発信していきます。
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