2009年12月31日木曜日

コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法(後編)

注:このエントリは一つ前のエントリの続きとなっています。
上記エントリを先にご欄頂くことをお薦め致します。

前編ではコロプラやラブプラス、そしてWebkinz等を例として
アトム財とビット財を組み合わせるという、
これからの時代のマーケティング手法の誕生を論じました。
ここでは、アトム財とビット財それぞれの特徴を考えつつ、
その活用方法について考えてみたいと思います。

特徴1.アトム財は複製コストがかかる、ビット財はかからない
アトム財は実際の物ですから、1個1個の製作に対してコストがかかります。
ビット財は『FREE』でも述べられているように、複製コストがかかりません。
よって、ビット財は売れれば売れるほど1個に対するコストは小さくなってゆきます。

特徴2.アトム財にはお金を払いやすい、ビット財にはお金を払いにくい
webサービスでは、ユーザー数が増えても収益化に苦労することがあります。
コロプラの例を見ると、アトム財を売るために自社のサービスを
ビット財として提供することが収益化の一助となっていることが分かります。
一部アバターアイテムの成功例などはあるものの、多くの人々は
まだビット財にはお金を払う文化は根付いていません。

特徴3.アトム財は差別化がしづらい
よく言われることですが、今の時代は高度成長期と違って
ほとんどの人が生きるために必要なものを揃えてしまっています。
このような時代では物を売るのは難しく、また多くの場合市場に競合他社が
存在しているため、各社は新機能をつけて差別化を図ろうとしています。
ビット財は企業にとって、新たな差別化を図る一つの方法となりそうです。

特徴4.ビット財のターゲットは得てして若い
ビット財、例えばコロプラやラブプラスのようなゲームに惹かれる人の多くは
30代以下の比較的若い層が多いと思われます。
対して日本の伝統企業(例えば有田焼のような工芸品)では
その顧客の年齢層は高まるばかりで、このままだと減少の一途を辿ります。
コロプラの事例でもあったように、ビット財をトリガーにアトム財を売ることで
企業は全く年齢層の違う、新たな顧客をターゲットとすることが出来ます。

特徴5.ビット財は継続利用を可能にする
これまでの通常の商品は、その商品を購入し、消費したら終わりでした。
ぬいぐるみもガムもカメラも、それを購入した後は、
ほとんどの場合、企業と顧客の関係性はまたゼロに戻ってしまいました。
しかしビット財を用いれば、企業は商品の購入後も顧客との関係性を継続し、
エンゲージメントを高めることができます。

特徴6.ビット財はストーリーを提供して世界観を広げることが出来る
ラブプラスやコアラのマーチの例から、我々はもう一つ学ぶことが出来ます。
例えばラブプラスはクリスマスケーキを「画面の中の彼女と楽しむ」という
ストーリーの中で消費させるという、新たな需要を生み出しました。
コアラのマーチでは、元々あった「まゆげコアラ見つけると幸せになる」等の
ジンクスを更に拡張し、色々なコアラを見つける楽しみを提供しました。
これらのように、ビット財はコンテンツによってストーリーや奥行き感を出し
ただの物でしかなかったアトム財を顧客にとってより意味のあるものにします。

特徴7.ビット財は広告としても機能する
これらの事例が話題になった大きな要因は、それがwebなどを介して
素早く広がっていったからであると考えられます。
特に最初の3つの事例では、始めからデジタルコンテンツの世界観が
出来上がっており、ユーザーのロイヤルティが非常に高かったため
ユーザー同士が情報を交換し、結果として売上に繋がりました。
ビット財を提供することは、広告としても効果が高いと言えるでしょう。

以上のように、アトム財とビット財には、それぞれ長所と短所があります。
これらの特徴は、どのような場合に、アトム財とビット財を組み合わせるか、
また自社のアトム財に適したビット財はどんなものなのかを考える時のヒントとなるでしょう。

では、実際にアトム財とビット財を連携させたマーケティングを企画する時、
我々はどのようにこれらを連携させれば良いのでしょうか。
前編にあった事例から考えると、現状での答えは明らかです。

前編で出て来た例のほとんどが、アトム財の購入時に紙で出来たカードやタグを付与していることが分かるでしょう。
今のところ、ビット財として提供されるのは既存のwebサービスへのログインか、
或いはARによるキャラクターの表示が多いと思われます。
前者の場合はカードに、サービス内で入力するシリアル番号が、
後者の場合はカードに、ARを出現させるためのARマーカーが印刷されています。
このカードがアトムの世界とビットの世界を繋ぐ、橋の役割を担っているんですね。

アトム財とビット財が保管しあうことでユーザーニーズを高めるという
新しいマーケティング手法は、2010年以降、更に広がってゆくものと思われます。
実際に商品を提供している企業の皆様は、ビット財の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法(前編)

以前僕はこのブログで、「コピーと共有が当たり前の時代にコンテンツでお金を取るヒント」というエントリを書きました。
これは、本やDVDなど、コンテンツのパッケージメディアを購入した際に
同じ内容のデジタルコンテンツを提供すれば良い、という提案でした。
ざっくり言えば物(アトム)を買った時のおまけとして、
無料のデジタルコンテンツ(ビット)を付ける、ということです。

実際、以前エニグモがローンチした「コルシカ」(現在は著作権関連の問題で停止中)や、
先日「ウェブ新聞を創刊する」旨を発表した北日本新聞社でも
雑誌を購入した人にデジタルデータを提供したり、
新聞を契約した人にウェブ新聞を提供したりと
同様のモデルを用いてコンテンツを提供しようとしています。

今の時代、デジタルデータの扱いやすさに慣れてしまったユーザーは
物としてのパッケージだけではニーズを満たすことは難しいように思います。
今後は物とデジタルを同時に提供することで、物の良さとデジタルの良さ、
その双方をユーザーに対して提供することが出来るのではないでしょうか。

最近、このアトムとビットを組み合わせるという手法は
コンテンツビジネスだけでなく、実際に物を販売する際にも
有効なのではないかと考えるようになりました。
今回はこれらを「アトム財」と「ビット財」と呼び、
幾つかの事例を見ながら新しいマーケティングについて考えてみたいと思います。

事例1:コロニーな生活PLUS
コロニーな生活PLUS」は、通称コロプラと呼ばれる
位置情報を利用したオンラインゲームです。
コロプラではアイテムを集めたりして遊ぶのですが、
その中には実際にその土地に行き、提携先の商品を買った時のみ
ゲーム内でももらえる、限定のお土産アイテムがあります。
仕組みとしては商品を買った際にコロカ(写真)と呼ばれるカードが貰え、
その裏に書いてあるパスワードをゲームで入力することで
ゲーム内で限定アイテムを購入することが出来るとのこと。



実店舗との連動はカードを使わない位置情報連動の形で今年3月に実験
コロカによる連動を今年の6月に開始、その後提携先の店舗を増やしながら
現在では全国29の店舗で提供をしています。
その中にはコロカによって来客数が跳ね上がった店舗も多く、
事例が日経ビジネスオンラインでも取り上げられました。

また、注目したいのはそのビジネスモデルで、これは広告のように
コロプラが店舗から先にお金を取るのではなく、
コロカの配布枚数から、実際に売れた分を把握し
その金額の15~20%を取っているということが特徴です。
システム開発やお土産のデザイン、コロカの印刷代等を考えると
これはかなり良心的なビジネスと言えるのではないでしょうか。
(コロカの仕組みについてはここギコ!さんが詳しく書いていらっしゃいます)

事例2:Merry +'mas
コロプラと非常に近い例が、今年のクリスマスに実施されました。
それがMerry +'mas(メリープラスマス)キャンペーンです。
これは恋愛ゲーム「ラブプラス」に出て来るキャラクターを
AR(拡張現実)として表示するARマーカーをカードに印刷、
このカードを実際にケーキを購入した人に配るというキャンペーンでした。



このキャンペーンでは、六本木、原宿、高円寺の各店舗で
100個ずつのケーキが用意されていましたが、
朝8時に公式サイトでケーキを販売する店舗を発表したところ
11時の開店前に各店舗で全てのケーキが売り切れるという、非常事態となりました。

事例3:Webkinz
このブログでも何度も紹介している『FREE※1ですが、
この本の第9章「新しいメディアのビジネスモデル」には
Webkinz(ウェブキンズ)というおもちゃが登場します。

これは実物のぬいぐるみを購入すると、タグについたコードを入力することで
オンラインアバターのサービスが楽しめるというものです。
調べてみたところ、これはカナダのガンツ社から2005年頃に発売され、
その後アメリカを中心に大ヒットを飛ばしたとのことでした。
著者であるアンダーソンは、ウェブキンズのビジネスモデルについて
以下のように記しています。
ウェブキンズのビジネスモデルは、「無料」と「有料」をうまく組み合している。(中略) ある意味、これは二〇世紀の経済と二一世紀の経済がうまく強調した好例だ。アトム(ぬいぐるみ)にはお金がかかるが、ビット(オンラインゲーム)はタダだ。現実世界で、ほとんどの子どもはぬいぐるみにそれほど興味を持たないが、ゲームの中で全種類の動物を集めることには夢中になる。そして、バーチャルの動物を追加する唯一の方法は、ぬいぐるみを買うことなのだ。

今までの3つ以外にも事例は存在します。
例えばTopps社の野球カードやガムメーカーWrigley社のThe 5 Mixer
ロッテが2006年に展開したコアラのマーチ@メール占いは、
アトム財を購入した際にビット財を提供するというモデルです。
これらは既存の企業が自社の製品に対して新たなる付加価値をつけるため
商品をトリガーとしたビット財を提供したパターンです。
また、先日株式会社CEREVOが発売したCEREVO CAMを始めとして、
購入することでwebサービスを使えるようになる家電もありますよね。

これらの例は、アトム財とビット財を組み合わせることで
消費者のニーズ(≒売上)を最大化する
という
新しいマーケティング手法であると言えるのではないでしょうか。
ではその手法には、具体的にどのような効果があるのでしょうか。
後編では、具体的な効果と手法について論じたいと思います。※2

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※1 今年の個人的ナンバーワン。ちなみに次点は『アイデアのちから』でした。こちらも超オススメ。
※2 実は最初のエントリではこの部分も含めて一つのエントリだったのですが、友人に「面白いけど長い」という感想を貰ったため、後から分割しました。


2009年12月29日火曜日

バーレーンの実況から考える、類似性の面白さ

ご存じの方も多いかと思いますが、一時期
「バーレーンの実況が日本語にしか聞こえない件」
という動画が流行りました。
「むっちゃ風邪ひいてん」で有名なアレですね。


僕の周りでもみんな爆笑してたのですが、
この面白さは一つパターン化出来る気がするのです。

本来であれば似ているはずの無いものが似ているように聞こえる。
きっとこの意外性が面白いのでしょう。

この面白さは、本家「空耳」も一緒ですね。


また、これは音だけでなく、ビジュアルでも同様。
本来であれば似ているはずの無いものが似ているのが面白い。

(他にも見たい方はこちら

一方で、意図された(と思われる)類似性は
オリジナリティに欠けると見なされ、嫌悪感を抱かれます。
例えばアジア諸国の模倣なんかは、しばしば非難の対象となったりします。

また、「間違い探し」という遊びは
似ているはずの無いものの中に類似を探すのと逆で、
ほとんど同じ絵の中に隠された僅かな違いを探す遊びです。

これらの差異はなんだか不思議な気がしますが、共通点を挙げるとすれば
似ているはずの無いものが似ていることを発見したり、
同じようなものの中から違うものを発見するという
クリエイティビティが感じられるものは面白く
ただ単に真似しただけというクリエイティビティが
感じられないものは面白くないと見なされると言えそうです。

「人がどういうものを面白く感じるか」というのは
webでも広告でも、何かを作るときには非常に重要な要素だと思います。
たまには面白いものを紐解いてその理由を探ってみるのもいいのではないでしょうか。

というわけで、ネタエントリでした。

2009年12月23日水曜日

スタバがコンビニのレジで1杯560円の特大コーヒーを売る方法

もう結構前になるのですが、近くのコンビニ(サンクス)で面白いものを見つけました。
それが、これです。

なんだか分かりましたか?

分からなかった方のために、もう1枚。
真ん中の赤いやつですね。


こんな感じで、男性誌のラックだけでなく女性誌のラックにも積まれています。

実はこれ、スターバックスが出してるアートブックなんですよね。
写真家は市橋織江、テーマは「スターバックスのある風景」。



カバーを取るとこんな感じ。



これってよく考えられたマーケティングだなあ、と思うのです。

例えばこれを広告だと捉えると、写真というコンテンツを皮切りに
スターバックスというブランドに対して興味を持ってもらい、買ってもらう効果がありそうです。
その時に注目すべくは、これが既存の雑誌の広告という形ではないこと。
最近「3つのメディア」という話をよく耳にしますが、その文脈で考えれば、
これは企業が所有するオウンドメディアとも言えるでしょう。
3つのメディアは何も、デジタルの世界だけの話では無さそうです。
もちろん企業の目的にはよるものの、費用対効果で見ても、
マスメディアの枠を購入するよりも売上に直接結びつく成果が得られそうです。

実はこのアートブックにはもう一つポイントがあります。
これ、一冊600円なのですが、買うとクーポンが付いており、
370円のショートサイズから560円のベンティサイズまで、好きなドリンク1杯と交換できるんです。
これは見方を変えれば、コンビニのレジでスタバのコーヒーを売っているのと同じことだと言えます。

マーケティングの4Pをご存じの方は多いと思います。
Product/Price/Place/Promotion ですね。
既存の製品やサービスの売上を伸ばそうと考えるとき、
我々はどうしても最後のPromotionの枠の中で考えがちです。
しかしスタバが今よりももっと売上を高めようとした時に取れる戦略は
何もPromotionだけではなく、Place、つまり販売チャネルを増やすという方法もあるわけです。

4つのPのうちPlaceを用いた戦略を取った事例で言うと、
有名なのはオフィスグリコの例ですが、
これからは今回のスタバのように、4つのPをまたいだ発想で
戦略を考えることがより重要になってきそうな気がします。

2009年11月26日木曜日

500色の色えんぴつに学ぶ、3つのアイデア

500色の色えんぴつ、って知ってますか?
通販会社のフェリシモが発売している色鉛筆です。
その名の通り500色あるのですが、
この500色の色の名前が2ちゃんでも話題になったようです。
「トワイライトゾーンの雪」とか「ため息のベール」とか
そんな名前がついています。
まあ要は、なんだそりゃ、と。

でもこの色鉛筆、かなり凄いと僕は思うのです。
そこで凄いと思ったアイデアを3つほどメモしてみます。

1.必要ないものを見定められた
まず最初にして最大のアイデアがこれです。
普通の色鉛筆でも、色には大抵、それぞれ名前がついています。
でも、その色の名前って実際使うのでしょうか?必要なのでしょうか?
恐らく自分で絵を描く時に、「色の名前」って特に必要無いんですよね。
「赤色だからこの色を使う」のではなく、「使いたい色が赤色だった」のです。
目で見て色を決めるのだから、そこに言葉が介在する余地は無い。
だったら無くしても問題は無いはず。
これに気付けたというのは、大きなポイントです。

2.空いた場所にストーリーを入れた
色の名前は必要無かったので、それが無くてもいいことは分かりました。
すると、この部分を「別の何か」に変えることが出来るはずです。
そこでフェリシモさんは空いた場所にストーリーを入れたわけですね。
これが2つ目のアイデア。
よく「ストーリーを売れ」とか「物語性が重要」なんて話がありますが、
この商品はこれでもかというくらい、それを素直に実践しています。
この色鉛筆のポイントがストーリーであることは、色鉛筆のコピーが
「500の色。500のなまえ。500のストーリー。」であることからも明らか。
つまりこれは「色の名前」という言い方をしてはいますが、
本当は「色の名前」では無いわけです。
主従は逆。売っているのは色鉛筆ではなく、色鉛筆の形をしたストーリー。

3.それを20か月に分割した
ストーリーが1本1本についた色鉛筆。
ここまでは完成しました。
普通であれば、これをそのまま一気に売ることも出来たはずです。
でもフェリシモさんはこれを25本ずつ、20カ月に分けて送るんですね。
これが3つ目のアイデアです。
今売ろうとしているのは、色鉛筆の形をしたストーリーです。
ただの色鉛筆なら全ての色が一気に使えた方がいいでしょうが、
ストーリーは一気に届けられても全部は読めません。
だから25のストーリーを20か月に分けて届ける。
これは1話完結型の連載小説に近いのではないでしょうか。
しかも1か月に25話ということは、平日に1話ずつ読んで丁度いい量です。
これが買ってから20カ月ずっと届くというのは、
ワクワクするし、お得感があります。


では最後に、3つのポイントをもう一度おさらいしてみます。

まず凄いのが、必要ないものを見定められたこと。
いま身の回りにある物の中にも、本当は必要のないものが無いでしょうか?
ここを変えることで、物事はよりシンプルになるのです。

2つ目に、ストーリーを入れたこと。
いま自分の売っているものに、ストーリーはあるでしょうか?
それは誰が、どんな思いで作ったものですか?
どこからどうやって来たものですか?
そのストーリーを商品の中心に置くことが出来ませんか?

最後に、全部を一気にではなく、少しずつ長く届けたこと。
もしその商品がユーザーに「小さな幸せ」を提供するものであるなら、
一気に全部、よりも少しずつ長くのほうがいいかもしれません。
分割して連続で届けることで、消費者のワクワク感を生み出せないでしょうか?

その辺りを考えると、いろんな商品に使えるのではないかと思いました。
というわけで、メモでした。

2009年11月16日月曜日

Freemiumを一過性のブームにしてはいけない

tadateruです。

Freemiumjpのキャンペーンを体験して思ったことだが、個人的にはまだ内容がAuthorizeされていない書籍が無料になったところで大して響かないと感じた。
自分にとっては書籍とは、知人や上司か本屋がすすめてくる時か、本当に知りたいと認識している内容が含まれていることがタイトルでハッキリと分かる時に初めて買ったり読んだりするものだった。

個人的な習慣はさておき、1万人限定キャンペーンはFremiumの正統なアプローチと呼べるかどうか疑問である。


◆freemiumjpに感じた違和感
私が最大のミスだと思うことは、NYのベンチャーキャピタリストFred Wilson氏の発見である「最初に無料で利用できるものは、いつも無料で利用できること」のルールを破っていることである。(
B3 Annex 「Free + Premium = Freemiumというビジネスモデル」) それを破るのはどういうことかというと、ただの時限DRMコンテンツにしかならないということだ。それだけでオリジナルのサービス・製品よりも著しく劣化している。期間限定で急かされたり、時間をかけて読む・後から参照するといった"利用の継続"にお金を払わなくてはいけなかったりするのは果たしてFreemiumと呼べるのだろうか。ただの「立ち読みで済ます行為」や、従来の無料サンプルモデルと変わらないのではないか。このキャンペーンにFreemiumのFree+Premiumという重要なアイデアのうちPremium的な要素は無い。
また、Freemiumjpの無料配布1万人突破はtwitterの話題伝播性によるもので、twitterの力を改めて示しただけである。一体1万人のうち何人が、DRMの締め切りまでに望ましい効用を得られるのだろうか。最後まで読める人や本書をフリー期間だけで活用できる人はそんなに多くはないだろう。
結果として、大勢の書評ブロガーに大量献本したつもりが、大勢の大して読みもしない話題に飛びついただけの人に配っただけになってしまっていないだろうか。


◆代金だけがコストじゃない。可処分○○を探せ
ところで、ふつうの人にとっては、新しいサービスや製品を試してみることも「コスト」だ。
自分自身の時間や意識を消費しなくてはならないし、どんなものも利用には新しい学習が必要だ。
「このサービスには特別な学習が必要ない」という評価でさえ、金銭的・時間的なコストを支払った上での利用と学習によってなされる。
「ふつうの人」と言ったが、どんな人でも人によって手持ちの資源比率が違い、どれを節約したいかが異なる。ある資源を出し渋る人に対しては、その資源のコストをゼロに近づけてやれば心理的な障壁が取り除かれやすい。
たとえば金銭コストをゼロにした時に飛びつく初期の導入者は、金銭資源を出し渋るとしても、新しいものを試す際の時間的資源やその他の心理的な資源は出し惜しみをしない。彼らは口コミや話題や評判を作るのに一役買い、時間的資源やその他の心理的資源を出し惜しみする後期導入者の資源を節約するわけだ。これはある意味では消費者側で起きている分業である。多くのWEBサービスでFreemiumが採用されているのは、限界費用がゼロな事に加えて、初期導入層のポジティブな評価に他の層の時間的/心理的資源節約の効果があるからだ。後期導入者は色々試している初期導入者のAuthorizationがあるから安心して利用を開始できるし、本当に価値のある製品/サービスだと分かれば初期導入者だろうと後期導入者だろうと出し渋らずに金を出す。
このメカニズムの対極に位置するのはブランド志向というやつで、金銭コストは大きいが、良いものを見つけられるまでの心理的資源や時間的資源をあらかじめ節約することができる。

Freemiumは価格が無料であることばかりに目がいきがちだが、逆に金銭以外のコストをはっきりと認識する必要性があることを我々に気付かせてくれるだろう。
さもなくば、「Freemiumを導入して無料にしてみたけど結局利益が上がらなかった。あれはダメだ」という、企業の担当者にありがちな失敗が増えるだけだ。
金銭以外のコスト/資源としてすぐに考えられるのは、時間のコスト/資源と、学習や努力のコスト/資源である。可処分所得、可処分時間はともかく、「可処分努力」という言葉が正しいかどうかは分からないが、どんな経済活動にもお金と時間と精神的なエネルギーが要る。
仮に、金銭、時間、努力の3種類のコスト/資源が重要なファクターだとするならば、2×2×2で、消費者をざっくり8層に分けることができる。たとえば時間もないし努力もしないけどお金だけはタップリ持ってる人、時間だけはあるけど努力もしないし金もない人…といった具合だ。8層それぞれの層の特徴や影響力の矢印の方向を見いだすことで、どの層にとってのトータルコストを下げることが最も効果的に全体のコストを節約させられるかという資源配分の問題を解くことができる。Freemiumはサービスの単価と影響力の方向とそれぞれの層の人数や人口分布が一定の時に有効な1つのパターンにすぎない。世代が変われば違う結果になる可能性がある。


◆なんだかんだ言ってもバズワードなんだから慎重に
そもそも、WebサービスにFreemiumが多く採用されはじめた理由は、誰かの手探りマネタイズによるまぐれ当たりを模倣しただけのものである場合や、利用者層が似ているからうまくいっているケースも多いはずだ。大元を辿れば、始めから課金したらユーザーからそっぽを向かれたという経験に基づく課金モデルであって、包括的な分析が伴っているものは実は少ないのではないかと察している。というか、基本的にはweb2.0の時と何も変わらず、WEB業界のマネタイズの慣習や流行にFreemiumと名前を付けただけである。
別にそれ自体は悪いことだとは思わないしネーミングは流行を増幅するが、ネーミングが独り歩きした結果、思わぬ落とし穴が待っているものだ。なんと言っても、クリス・アンダーソン公式のはずの日本初"Freemium"イベントがFreemiumの性質を備えていなかったことはあまり笑えない。

極端に聞こえるかもしれないが、Freemiumはジレットのカミソリのビジネスモデルやプリンタのインクで利益を稼ぐモデルと根本的には大して変わらないと考えてよい。
限界費用の低下とネットワーク効果により、無料会員でも維持し続けるメリットがデメリットを上回り、コストの比率と課金の機会をさらに極端に設定できるようになっただけである。


◆Freemiumの今後?
もちろんFreemiumは今後いっそう話題になっていくかもしれないし、WEBだけでなく実世界にもFreemiumの波がやってくるだろう。だがFreemiumを一過性のブームにしたり過度に期待しすぎたりしてはいけない。適切なマーケティングの手法と未知の有用なパラメータ収集の機会をみすみす逃すことになる。値段の高さや品質の悪さだけが購入の障壁ではないことは、良いものを作ったからといって売れるわけではないという経験が示している。一方でコストのようなネガティブな指標だけでなく、「楽しさ」や「自慢できること」など、従来無視されてきたポジティブな指標の重要性も明らかになってきているが、数値化しにくいためにまだ得体が知れないままである。長期的に見て重要なのは、個別のマーケットにおいて金銭以外のコスト/資源の関与度を明らかにすることである。



andvert君によるfreemiumの再掲記事に対するレスポンスとして。



2009年11月15日日曜日

書籍のデジタル化と自動翻訳で、出版市場が急拡大するという仮説

日本に向けたAmazon Kindleの発売、
対抗軸となるSONY ReaderB&Nのnookの発表など、
電子書籍/電子新聞の話題がにわかに盛り上がりを見せています。

またGoogleブック検索を巡っても様々な議論が行われ、
先月末に和解修正案に要請を提出した出版流通対策協議会を初めとして
日本の様々な団体・協会が声明を出しています。
更に欧州では既に対抗策としての書籍電子化を表明
日本でも国会図書館が電子のデジタル化に前向きな態度を見せました。

そして昨日、その流れに呼応するかのようにグーグルおよび和解関係者は
日本や欧州の出版物を除外するという旨の修正和解案を提出しました。
さて、これは日本側の勝利と言えるのでしょうか?
個人的には、少し疑問の残るところではあります。


そもそも、日本の人口は、世界から見て非常に小さいですから
書籍に限らず様々な生産物において、市場が小さいことは否めません。
それがもし、いろんな人が世界を相手に商売が出来るようになれば、
ものづくりや芸術、カルチャーを生み出すのが得意なこの国は、
もっと元気になるのではないかなんて安易に考えたりします。
例えば京都の職人が丹精込めて作った着物を、イタリアに住んでいる人に
その職人が直接売れたら、それは結構いい世界だな、と僕は思うのです。

インターネットの力を使えば、そういうことは可能になる気もします。
ただ、この記事でもちょっと触れたんですが、これには3つの壁があるのです。

1つは流通の壁
もう1つは通貨の壁
そして最後の1つが、言語の壁です。

実はこれらの壁を解消すべく、様々な企業がいま取り組みを行っています。

流通の壁は、実際に物販をしている会社にとって最も重要で難しい問題。
楽天市場は世界展開をするためにこの問題にいち早く取り組み、
楽天海外販売では、複数の商品をまとめて海外に送るサービスなども提供しています。

通貨の壁は、文字通り通貨が違うことにより決済が難しいという問題。
これは今年6月に資金決済法が可決したことにより、
PayPalを初めとした企業が日本でも展開し、解決される見込みがあります。

言語の壁は、購入ページや商品の言語が通じないことによる問題。
これはwebページを自動で翻訳してくれるGoogle翻訳のほか、
Facebookがクラウドソーシングによる翻訳機能を提供していたりもします。


さて、話を書籍に戻しましょう。

今まで、書籍を海外に販売する場合に大きなネックとなっていたのは
他の製品と変わらず「流通の壁」でした。
しかし、これがデジタル化することによって、インターネットで
データとして「配送」することが出来る為、事実上この壁が取り払われます。

また書籍などのコンテンツビジネスは、ことばそれ自体が商品であるため、
言語の壁の占める割合が大きくなってきます。
これまでは日本の本を海外で出版するためには
様々なプロセスを経なければならなかったでしょうが、
これもデジタル化で自動翻訳やクラウドソーシングでの翻訳が出来れば、
ボタン一つで海外に出版することも可能になるかもしれません。

もちろん、小説などの芸術としての書物であれば言葉にこだわるので
今の自動翻訳の精度では難しいでしょう。
しかしながらこれも、例えば出版社の中に翻訳者が居れば
海外の顧客に直接届けることは出来るようになるはずです。

書籍のデジタル化は、書物が誕生して以来の大きな変化だと言われます。
しかし個人的には、デジタル化の影響力が本当の意味で大きくなるのは
デジタル化と自動翻訳の両輪がうまく回り始めるその時だと思うのです。
必ずしもGoogleブック検索だけが回答であるとは思いませんが、
出版社は今回のブック検索関連の訴訟に片がついてからも
書籍のデジタル化について真剣に考える必要がありそうです。

2009年11月14日土曜日

これからのビジネスモデル、Freemium(フリーミアム)について考えてみる(再掲)

クリス・アンダーソンの『フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』がとうとう日本語版で発売になります。
それに先立ち、昨日には本を紹介する特設サイトもオープン。
wired誌がFREEについての特集を組んだのが2008年の2月ですが、その頃からはてブで一人で「無料化」タグを付けて無料化について考え、日本での出版を待ち望んできた僕としては本当に嬉しい限りです。
個人的には、Freemiumを含む、無料化の波というのはこれからの時代において非常に重要になってくるであろうと感じています。
今回は出版記念ということで、以前一度書いたFreemiumの記事を再掲させて頂きます。

Freemiumモデルとは、Free+Premium、つまり無料版と付加価値の高い有料版を組み合わせたサービスモデルのことを指します。
この概念自体は2006年からあり、ベンチャー投資家のFred Wilsonが提唱したとのこと。
Wikipediaの説明を読むに、当時は広告モデルも含んでいたようですが、今は別のものとして語られることが多いように思います。
それが今、webでの無料モデルが壊れかかっている時期とアンダーソンが"Free"を出すタイミングが重なり、再注目されているという状況です。

ではこのFreemiumモデルは、これまでのビジネスモデルと比較するとどんなモデルに近いのでしょうか。
無料と有料という意味では、カミソリの柄の部分を無料で配り、替え刃の販売で後からコストを回収するというカミソリ型のビジネスモデルと比較して論じられることが多いようです。
実際、"Free"の予告編とも言えるWiredの特集でアンダーソンは、ジレット社の事例を皮切りに無料経済の話を始めています。
このモデルのキモは、一度カミソリの柄を買うとそれに合う同社の替え刃を買わなくてはいけない、というところにあります。
つまり、最初にハードが決定されてしまうことにより顧客を囲い込むことが出来、その後も継続的に収益が生み出されることになるのです。
他にも、コピー機やゲーム機、運用・メンテナンスで儲けるタイプのシステム開発やエレベーターなどがこのモデルに当てはまると言えるでしょう。

しかしFreemiumモデルは必ずしもハードにロックインされて後の収益が生まれるというわけではありません。
個人的にFreemiumは、『ザ・プロフィット』によるところの「製品ピラミッドモデル」の特殊なパターンとして理解した方が分かりやすい気がします。
製品ピラミッドモデルとは、ある製品カテゴリにおいて、一つの企業が顧客ごとに製品を分け、ピラミッドのように段階的なレベルを設定するモデルを言います。
ピラミッドの図を想像しても分かるように、最下層にあたる最も価格の低い製品が大量に販売され、頂上にあたる最も価格の高い製品は少量販売されます。
この時、最も利益を生み出すのは頂上にあたる高付加価値製品になります。
では、何故ピラミッドの底辺部分の製品が必要になるのでしょうか。
これを理解するため、まずは『ザ・プロフィット』より、製品ピラミッドモデルをバービー人形の例で解説した部分を抜き出します。

バービー人形は、20ドルとか30ドルとかで売られている。他社はこの低価格市場には簡単に参入できる。そこで必要なのが防火壁(ファイアウォール)だ。他社の追随を防ぐために、10ドルのバービー人形を売り出して廉価市場への他社の参入を封じ込める。ここではほとんど利益は上がらないが、他社が自社の顧客との関係を結ぶ道を塞ぐことはできる。それに、最初は10ドルの人形しか買わなかった顧客も、やがてはアクセサリーや他の人形が欲しくなるものだ。その部分ではそれなりの利益が上がる。 しかし、(バービーを販売している)マテルはさらに本当の意味での成功を収めるために、廉価市場とは対極的な方向にも目を向けた。そして、登場したのが100ドル、200ドルの市場だ。
重要なポイントはずばり「防火壁」。
他社が追随出来ないような廉価でエントリー製品を提供することにより、他社への参入障壁を高くすることが出来ます。
さらに付け加えると、廉価製品は顧客を集める役割も担っています。
廉価製品で集客し、かつ他社参入を防ぎつつ、高付加価値製品で利益を生み出すというのがこのモデルの特徴と言えるでしょう。
(この考え方は、フロントエンド商品/バックエンド商品という言い方もされるようです)
このモデルを利用しているのは、人形以外にも、自動車、腕時計、クレジットカード、最近ではiPodなんかが思い当たりますね。

Freemiumモデルの場合、上記の「他社の追随出来ないような廉価」が無料になっているというわけです。
ただの廉価よりも無料の方が顧客に対するインパクトは強いはずですから、通常の製品ピラミッドモデル以上に他社にとっての参入障壁が高くなります。
また、そのインパクトから、無料化は集客としても非常に強い手段です。
Googleが、他社が有料で提供しているようなサービスを無料で提供して話題を集めたのは記憶に新しいですよね。

このFreemiumモデルは、今や様々なwebサービスに採用されています。
その価格やFreemium Rate(提供された有料サービスに対する無料サービスの比率)が正しいかどうかは別として、Yahoo!、mixi、はてな等、国内の主要なwebサービスの多くがFreemiumモデルを採用していると言えます。
一時期「無料モデルは終わった」ということを言う人たちが居ましたが、僕はそうは思いません。
「とりあえず無料にしてみる」というブームは去りつつありますが、それは無料化が戦略として見直されているからこそです。

マスメディアのビジネスモデルが崩壊しかけている今、新聞社ではwebへの記事の無料提供をやめて有料化しようという声が上がっています。
しかし以前こちらのエントリでも書いたように、web上にはブロガーのように無料で文字を書く人が大勢居ます。
web上のコンテンツとしてこれと争うためには、有料と無料の丁度良いバランスを見極めなければなりません。
今後新聞社などの既存のメディア企業がいかにこのFreemiumモデルを使っていくかがポイントとなりそうです。

2009年11月8日日曜日

楽天がEdyを使って何をするか想像してみる

今週、楽天が電子マネー「Edy」を運営する
ビットワレットを子会社化するというニュースが出ました。

楽天、「Edy」のビットワレットを子会社化
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/05/news071.html

個人的には学生の頃から、ポイントと電子マネーと仮想通貨は
最終的に同じ方向を目指すと思っていたので、
楽天がポイントと電子マネーを両方持つ、
最初の会社になったことは結構驚きでした。

ここで、Edyを使って楽天が何をするのか、いくつか想像してみます。
ちなみに特に根拠は無いのであまり信じないでくださいw

ポイントと電子マネーの交換
はてブのコメント欄を見ても分かるように、これはユーザーからは要望が多いサービスでしょう。
ですが元々ポイントプログラムというのは単なる値引きとは全く違います。
ポイントを付与した人が次回も楽天経済圏内で買い物をしてくれ、
その次回の買い物の数%が楽天の利益になるからこそ意味があるわけで、
付与したポイントが経済圏外に流出してしまっては元も子もありません。

だからこそ前回の提携の際には「Edyと楽天ポイントが交換出来る」ではなく
「Edy購入時に楽天ポイントが貯まる」というサービスだったわけですが、
今回は資本提携ということで、ポイント交換の可能性もあるかもしれません。

ECナビのグループ会社のPeXという企業があるのですが、
この企業はポイントエクスチェンジのサービスを運営しています。
ポイント交換の際にはポイント同士でレートを付けることにより
別の企業とのポイント交換を成立させています。
これでPeXも利益が出るのですから、この方法を取れば不可能ではない気がします。

楽天上でのEdy決済
クレジットカードを持たない若年層や、
カードがあっても利用にまだ不安を覚えるユーザーにとっては
ネット通販はまだ敷居が高いと言えるでしょう。
Edyではパソリと呼ばれるPCに接続するEdyのリーダ/ライタがあるので
これで楽天上での決済をさせるというサービスは出来そうです。
若年層/高齢者層を取り込むことで新しい需要喚起は行えますね。

Edyによるweb上の少額決済
ここ数年、web上での少額決済の話をよく耳にします。
昨年から続く不況によって企業の広告費が削られ、
webサービスも、新聞社を含めたコンテンツ企業も
もう広告費だけでは儲からない状況にあるというのです。
実際今年の9月にはGoogleも新聞社に少額決済の提案をしています。

一方で決済の仕組みが元々あるモバイル市場は、
月々の継続的な課金でコンテンツを売ることが出来ています。
このことからもwebへの少額決済への期待は大きく、
資金決済法の成立とも相まってこの市場に参入する企業もいくつか出てくるでしょう。
この点でもEdyで決済が出来ると、ユーザーの利便性は高いと思います。

会員企業へのEdyへの導入
楽天には現在、31,456の店舗があるそうです(10月19日現在)。
店舗の多くはリアルでの店舗も持っているでしょうから、
ここにEdyを導入させることが出来れば、Edyとしての収益は上がるでしょう。
ただし、別の組織であったEdyの顧客獲得に対して
楽天の営業担当がどれだけモチベーションを持って売ることが出来るか。
この点は考えないといけないかもしれません。

Edyのリアル決済からのデータ収集とクロスセル
ここ数年、楽天では楽天のサービス全体を跨ったクロスセルに注力しています。
例えば楽天スーパーDBを使ったターゲティング広告は、
よりパーソナライズされた情報としての広告を打つことに成功しているようです。

これと同様に、リアル決済を行った際に楽天からのクロスセル提案をすることは可能でしょう。
例えばEdyを使ってあるバンドのCDを買った人には次の新作が出た時に楽天で予約するように促したり、
Edyで毎回同じミネラルウォーターを買っている人には
「楽天で箱買いすればもっと安いですよ」とメールすることが出来るかもしれません。
あるいはEdyで家電製品を買った人には「楽天で買うと最安値が●●円でした」なんてメールが来たら、
次回からはリアルでの買い物をする前に楽天で金額をチェックする癖がついちゃいそうです。

今後Edyがどうなるのか、注目していきたいところです。
何か面白いアイデアや想像があれば、是非教えてください。

2009年10月31日土曜日

米書店Barnes & Noble 発表の電子書籍端末、nookがかっこいい。

今月20日、米書店大手のBarnes & Nobleが、nookという名の独自の電子書籍端末を発表しました。
これがなかなかどうしてかっこいい。
まずは以下の動画をご覧ください。

3GWiFiネットワークや下部のカラー液晶、Android OSベースなどの端末の魅力もさることながら、
今回のデバイスで最も面白いポイントはリアルとの連携のさせ方だと思います。

まず1つめは、本を友人に「貸す」ことが出来るという点。
nookは最大14日間、電子書籍を貸すことができます。
しかも貸す相手のデバイスはnookでなくてもOK。
iPhoneやiPod、Blackberryなどの一部のスマートフォンに対応しています。

もう1つが、店舗との連携。
こちらは実際の店舗内であれば、販売されている全ての電子書籍を立ち読み出来るとのこと。
端末の販売も店舗でするそうで、実際の店舗がかなり重要な役割を果たしていることが分かります。

これらの「貸し」たり、「立ち読み」したりというのは、
デジタルからの発想の場合、無くてもいい機能のはずです。
デジタルであればコピー・複製は容易ですし、
店舗外から立ち読み出来るようにすることも可能だったはず。
しかしながら、あえて今まで実際の本でやっていたことを
機能として同じように実装するというのは面白い試みです。
著作権の議論をクリアするためには、このように今までの習慣をメタファーにしつつあえて制限を設けることが今後もポイントになりそうです。

このnook、すごく気になるところですが、やはり日本での発売は難しいのでしょうか。
Amazon Kindleの時のように、Tadがレビューしてくれるといいのですが。笑

以下、公式ページです。
http://www.barnesandnoble.com/nook/index.asp

『Hanako FOR MEN』に見る、あたらしい価値観、かっこよさ。

この前、本屋に行ったらこんな雑誌が出ていました。

自分が知る限り、初めてのナチュラル系メンズ雑誌です。
思わず買ってしまったんですが、雑誌の目次ページを見たらこんなことが書いてありました。
実は『Hanako』の男子読者が増えつつあり。「ガンバリ過ぎないギラギラしてない男性誌がいい」「ないから作ってほしい」。行く先々で出会う男子からの応援に背中を押されました。
どうやらこの雑誌の創刊は読者からの要望で出来たみたいなんですね。
5月頃にtwitterで「ナチュラル系のトーンで男向けの雑誌を作ったら行ける」と呟いたんですが、
それが正に現実になってまして、やっぱり来たかという感じでした。
同じ目次のページには、想定ターゲットについても書いてあります。
読者は「30歳前後の働く男子部」。でも実のところ趣味や感性が合えば年齢はどうだっていい。爽やかで、さりげなくて、ゆるくて、でも、こだわることにはこだわる。仕事を楽しむ。同じように自分のライフスタイルや価値観も大事にする男子。
すごく草食男子的です。
こういう人ってやっぱり最近増えている気がしていて、僕の周りでも非常に多いです。
雑誌の中身も、カフェの紹介とか観葉植物とか料理のレシピとか、そんな感じ。
なんというか、「かっこいい」の価値観が明らかに変わってきている。
個人的に思い当たるところを列挙してみます(思い出したら追加するかもしれません)。
  • 本が好き
  • カフェ、本屋、図書館など、落ち着いた場所が好き
  • 料理が好き、あるいは出来た方がいいと思っている
  • 無印良品が好き
  • エコやロハスなど、地球にやさしい生き方
  • 写真を撮るのが好き
  • アートやデザインが好き
世の中の嗜好が細分化していると言われて久しいですが、
上記のような価値観はある程度いろんなジャンルの人に共通している気がします。
「草食系男子」が現れたのも、恋愛云々だけでなくもっと大きな動きの一つの表れ方に過ぎないと思うのです。
そういう価値観の人々がどういう消費をするのか(あるいはしないのか)というのは、
ビジネスに関わる人は気にしておくといいんじゃないでしょうか。

2009年10月26日月曜日

ガールズログでお馴染みのモディファイの広告はスパムだと思う。

やっぱりちょっと見過ごせないので、言わせてください。
モディファイのtwitter広告はスパム!
既に気づいている方も居るとは思うのですが、
あれはちょっと許せない気がしたので声を上げてみる。

はてブ界隈で大不評のGirls Logというサービスを立ち上げた、モディファイという会社があります。
Girls Logのイケてないと言われる理由は東京ナイロンガールズが給湯室で語ってくれているんですが、個人的にはまあ見なければいい話なのでそんな気にしなかったのです。

ただ、モディファイの@ogawakazuhiroさんの今日のつぶやきはどうしても気になった。
このつぶやき、http://bit.ly/1BQpWc と http://bit.ly/2k1nnf という、bit.lyで短縮した2つのURLが書き込まれているんですが、これが曲者。

前者の http://bit.ly/1BQpWc をクリックすると、以下のようなページに飛ばされます。

このページのURLは http://ads.modiphi.com/sm3/II となっており、よく見ると左上にはJINSのバナー広告が貼ってあります。
そしてその右に「Ads Transferred by Modiphi SM3」の表記。

上のなんかはご自身のブログなのでまだいいのですが、このつぶやきにあるリンクはちょっとありえない。

毎日jpの記事にタダ乗りして、自社管理の広告を出しています。

いや、これがユーザーに明示されていればまだいいんです。
しかし更に性質が悪いのは、元記事のURLを http://ads.modiphi.com/sm3/*** というURLに一度置き換えて広告を付与し、それをさらにbit.lyで短縮しているところです。
これによってtwitter上でbit.lyのURLを見た人は単なる普通のリンクだと思ってクリックしますし、元記事のメディアにとってもPVにカウントされない(恐らく)のでマイナスになるはずです。
広告主だってそんな安易な出し方をする広告を嬉しがるでしょうか。
なんというか、広告のインプレッションやクリックを稼ぐだけで誰も幸せにしない広告なんですよね。

確かにbit.lyのようなURL短縮系のサービスはそのURLの向こう側は見えないですから、自分の都合の良いURLに連れて行くには適していると思います。
でもそのことにはいまいろんな人が懸念を示し始めていて、例えばAmazonアフィリにはしっかりアフィリエイトと付記しなきゃいけないとか、当のbit.lyが迷惑リンクに警告を出したりとか、色々なルールが作られ始めている段階です。
そういう状況のいま、Twitterを中心としたソーシャルメディアマーケティングのリーディングチームを自称する彼らが、URL短縮サービスを自分の都合の良いように解釈するのはどうかと思うのです。

twitterで新しいメディアを作っていくというのは必要なことだと思いますし、試行錯誤しながら新しいものを作る姿勢も素晴らしいと思います。
でも元々僕はブランド名が違うころからJin'sというメガネ屋が好きで、
更に@JINSMAN のキャンペーンも面白いと思っていただけに、正直残念でした。
この辺りは、twitterで@ogawakazuhiroさんにも聞いてみようかと思います。

追記1
小心者の私は、書いた後にちょっと言い過ぎたかなーと後悔して来ました・・。
確かエヴァの時もそんな感じで焦ったような。あうあう

追記2
ブクマコメント欄でid:ululunさんもご紹介下さっておりますが、twitter本体で@ogawakazuhiroさんご本人よりレスを頂きました。
こちらこちらです。合わせてご覧下さい。
回答は頂いたのですが、問題であるという意識はまだ残っているのでちょっとまだモヤモヤ。

それにしても、こうやってサービス運営者に直接意見出来るってのはすごいですね。
ブログからtwitterになってコミュニケーションが更に速くなった印象を受けました。

2009年10月20日火曜日

相手の立場に立って話せる人かどうかを一瞬で見分ける方法

自分の言うことを相手に分かってもらうために、
相手の立場に立って話すことって重要ですよね。
特にプレゼンテーションなどでは、理解の度合いが違う大勢の人を相手に、
分かりやすく話さなくてはなりません。
正直、僕はまだ全然そんな事が出来る人ではないのですが、
人と面と向かって話す時に、一つだけ気を付けていることがあります。

それは、左右を逆に示すこと。
察しの良い方はもうお気付きかと思いますが、
面と向かって話す場合って、自分と相手で左右が逆なんですよね。

例えば何かのイメージを説明するときに、
「これが右側にあって・・」と言いながら自分で右側を示すと
相手にとっては左側を示されているわけです。
要はバスガイドさんが「右手をご覧ください」って言いながら
自分では左手を掲げているのと全く同じです。

僕なんかはリスティング広告を扱うので、
例えば初めて会った人に自分の仕事を説明するときは
「検索すると上とか右とかに文字の広告が出るんですよ」と言いながら
自分から見て上と左をジェスチャーで示すようにしてたりします。
あとは時間軸とか文字とかは左から右に流れるのが普通なので、
ジェスチャーで表す際には右から左に流すように示します。
時間軸であれば自分から見て右が過去、真ん中が現在、左が未来ですね。
文字であれば右が1文字目、真ん中が2文字目、左が3文字目と。

これは意識している人はもう当たり前のようにやっているんですが、
一度意識しない限りは絶対出来ないので、
自分以外でやっている人を見るとちょっと嬉しくなります。
この間、某大手広告代理店の方が意識していらして、オオッと思いました。
というわけで、今まで意識していなかった方は是非お試しくださいませ。

ちなみにタイトルは半分釣り。
別にこれをやってるから必ずしも相手の立場に立って話せるわけではないし、話のうまい人がみんなこれをやってるわけでもないです。
すみませんでしたw

2009年10月17日土曜日

美人すぎる台湾の女の子たちが自分の写真を投稿しているSNS

私OKPは、色々用事がありまして最近台北に行って参りました。台湾では多くの人々と時間を共にしたのですが、現地で出会った女の子にインターネットの利用状況について質問をしたとき、台湾の若者がよく利用するSNSを教えてもらいました。「無名小站」というサイトで、特に女の子に人気があるとのことでした。Yahoo!奇摩(Yahoo Taiwanの正式名称)が保有しているサイトで、日本でいうとmixiのように、自分のアカウントを保持しているのはあたりまえとのことでした。ホテルに帰り、そのサイトにアクセスしてみると、非常に驚くべき状況を目の当たりにしました。カルチャーショックともいえるでしょうか。


まず以下はトップページです。かっこいい感じの男性の写真が4枚並んでいます。



(Source:無名小站)

私は男性なので、迷わず、「妹」と書いてある箇所をクリックします。すると、かわいい女の子の写真が4枚表示されました。その次に「更多」をクリックします。読んで字の如く、「もっとみる」という意味です。



(Source:無名小站)

するとどうでしょう。とてもかわいい女の子の写真がどんどんでてきます。



(Source:無名小站)

アップロードされたアルバムの時系列でたくさんの写真が表示されます。



(Source:無名小站)

非常に低俗な話しかもしれませんが、かなりレベルが高いです。



(Source:無名小站)



(Source:無名小站)



(Source:無名小站)


少し調べてみると、本業でタレント活動やモデルの仕事をしている人が、マーケティングツールとしても機能しているようでした。宣材写真をたくさん掲載しています。プロフィールをみてみると、小学校から大学まで細かく書いてあります。「マイミク」や「日記」のような機能もありますので、ファンとのコミュニケーションにも活用しているようです。お国が変われば、ソーシャルメディアマーケティングのチャネルやそこで行われるコミュニケーションの温度感も変わります。




(Source:無名小站)



(Source:無名小站)



(Source:無名小站)



亜熱帯気候の国、台湾という開放的なお国柄なのでしょうか。かなり詳細なプロフィールを掲載したり、プライベートな写真をたくさん掲載しています。日本の女子高生たちが楽しんでいる「プロフ」や「りある」も、自分たちのプリクラを堂々と掲載していますが、たぶんそれよりも情報量が多いです。


「美人時計」が最近あまり美人じゃなくなってきているという話しも聞きますが、台湾でそういった企画をやったら、素敵なものができるんじゃないかと思いました。(台湾の人にそのことを話したら、大笑いされましたが。。。)


試しに私も「無名小站」の会員登録を試みましたが、現地で利用可能な携帯電話番号の入力が必須だったので、できませんでした。この他にも身長や体重などのかなり詳細なプロフィールも入力する必要があり、Match.comのような恋人探しサイトとしても機能しているようでした。




台湾で驚いたことのもう一つとして、日本のファッション雑誌が日本語のまま台湾で1.5倍くらいの値段で売られていることでした。現地の子に聞くと、多くの台湾女性は日本のファッションを参考にしているとのこと。少々高くても、日本語が読めなくても、こういった雑誌をよく買うそうです。





すごく綺麗な女性が自分からたくさんの写真を公開するという活発でオープンなオンライン活動、日本のファッションの情報収集へ欲求などを考慮して、おもしろいサービスができるんじゃないかと思いながら、台北での日々を過ごしました。


2009年10月12日月曜日

素敵な交通広告の世界にようこそ

ふと、Webを巡回していたら、とっても素敵でワクワクする動画を見つけた。


これは、地下鉄の階段をピアノ調にしてセンサーを取り付けることで踏むと音が鳴るようにし、「興味を引くことで階段を使う人を増やせるか」というテーマで実験を行ったもの。
結果として、通常より66%多い人がエスカレーターではなく階段を利用したとのこと。

この企画自体はフォルクスワーゲンが仕掛けたものだそうだが、こういった「日常の中にドキドキを仕込む」というアイデアは割と大好き

優れた交通広告や交通アートは、ルーチン化された日々の日常をちょっと刺激的にしてドキドキをくれる。
例えば、暗記しておくとなにかと便利なプチ公式まとめによると、1日の通勤時間が往復2時間なら、年間で500時間をこのルーチンワークに充てていることになる。

今さら言うまでもないが、音楽を聴いたり、読書をしたり、ゲームをしたり、勉強をしたり。
あるいは電車のラッシュに歯を喰いしばって必死に戦っていたり。
この固定化された時間をどう快適に過ごすかというのは人生の中でも割と大きな命題と言ってもいいんじゃなかろうか。

というわけでちょっと話がズレたけど、今回は冒頭の素敵なアートの様にWebで見かけた「日常をちょっとドキドキで刺激的なものにしてくれる」素敵な事例をいくつか紹介したいと思う。

■Cafe Folgers in NYC


アメリカのFolgersというコーヒーブランドの広告。
ちょっと馴染みが薄い人にはわかりにくいかもしれないけど、冬場なんかのマンホールの蓋から出てくる湯気をコーヒーの湯気に見立てている広告。
「単に湯気が出ているだけのマンホール」だと見向きもしないのに対して、「コーヒーから湯気が出ている」ことに対してはみんな注視する点が面白い。

マンホールの湯気といった見過ごしがちなアイデアをインサイトにして、日常の中にちょっとした非日常を溶け込ませる。
割と素直にオっと思わせる秀逸な作品だが、惜しむらくは「何の企業の広告かわかりにくい」という点。

注視した人と、自社製品のコーヒーとの導線をどう結びつけるかとか色々見ていて妄想が膨らんでくる。
ひょっとしたら全然関係ない近くの売店でコーヒーとホットドッグを買って満足して終わりかもね。


■McDonald's : FREE COFFEE

コーヒー続きで、こちらはマクドナルドの広告。
既存の道路照明灯を用いて安上がりに作りつつも、誰もが納得な「コーヒー」の広告。
どう発想を転がせば、道路の照明灯がコーヒーを注いでいる光景に見えるのか教えて欲しい感じだ。正にコロンブスの卵的発想。

ドナルドが笑ってMのゴールデンアーチをアピールするよりも、日常の中に異物とでもいうべき驚きで視界に飛び込んでくるこちらのほうが、広告的な効果は高い。

見ているだけでなんとなく、
「タダなら一杯よっていこうかしら。ええい、ついでにポテトも頼んでしまえ!」
という戦略に見事にはまりそうな気がする。


蛇足だけど、マクドナルドのコーヒー戦略といえば、アメリカではスターバックスより美味いなんていうレポートも出ていたり、
日本でもマクドナルドが先導を切ってファーストフードの隙間時間である14時~17時ぐらいのいわゆる「カフェタイム」の顧客やサラリーマン層を獲得するために「脱ファーストフード・入カフェ化」戦略で顧客増加を図っていたりする
(参考:狙いは「カフェ化」!? ファストフード“コーヒー戦争”の理由とは


■Shopping Curitiba's Sale (BarCode Crosswalk)

お次はちょっと変わってブラジルの横断歩道を使った広告。
横断歩道を使った広告やアート表現なんかはよく見る手法だけれども、「横断歩道をバーコードに見立てる」という発想はなかなか出そうで出てこない。

ただ、ちょっと穿って見ると、「これはどうやってアクセスすればいいんだ?」という疑問も残る。
おそらく普通に横断していては「バーコード」であることになかなか気づきにくい。
そして気づいたとしても、このバーコードを読み取るのはなかなかに大変で面倒な作業である。

興味・関心を引き付ける魅力はとても高いのに、その後の誘引が一歩足りないこの作品はそういった意味で「優れた広告」というよりは「優れたアート」といった方が正しいかも。


■Casino De Venezia

イタリアはベニス空港の広告。
上のバーコードを見たときも思ったが、こっちはもっと「うわ!すげぇ!」と感じた広告。
アトランダムに出てくるトランクの光景を、カジノのルーレットに見立てた秀逸な作品。

あー、こんな広告があったら絶対カジノ行くわ。
トランクが出てくる時間って、まだかまだかと割とイライラする時間だったりするので、そういう瞬間にこそ、こういった「発想の転換による面白さ」はクリティカルヒットすると思う。
ベルトコンベアーを赤黒に塗り替えるという単純な仕掛けだけで、他人のトランクが落ちてくる光景さえ楽しむことができる。
正に日々の日常をちょっと刺激的にしてくれる秀逸な広告。


■What Goes Around Comes Around

お次は趣向を変えて、柱広告で秀逸な作品の"What Goes Around Comes Around"。
イラク戦争反対のポスターで「報復のループ」というコンセプトを、「グルリと一周すると自分に返って来るという」柱広告の媒体特性を上手く使って表現に落とし込んだ広告。

見ると、ハッ!とさせられる心に響く広告。


■NHKテキスト「きょうの料理」放送50年記念キャンペーン

海外の事例ばっかりではアレなんで、日本の事例も。
実際に見たことはないが、JR東日本企画が行っている「交通広告グランプリ2008」のグランプリに輝いたNHKの広告。
素材は本物ではないものの、電車の吊広告に実際に調理具を用いてしまおうという反則技的な作品。

「どうすれば、媒体の持つ表現の枠を破れるか」という深遠なテーマに真っ向勝負したという意味でも割と好きな広告だったりする。


■Nike : Goals

最後はオランダのKesselsKramerという有名な面白エージェンシーが1996年に手がけたNikeの広告。
壁面に白のチョークで枠を書いたという、たったそれだけの作品。

コピーも一切なく、あるのは単に「あの」見慣れたNikeのマークだけ。
チョークだけでも自分たちのサッカー場が作れるんだよ、と訴えることで、Nikeの「Just Do It(とにかくやってみよう)」というスローガンを、とてもシンプルな形で広告に置き換えている。

シンプルイズベストのお手本の様な広告。


■終わりに
と、色々紹介してきたけれども、ここに紹介していないだけで、日本にも(というより自分のリアルな日常でも)見ると「オッ!」とワクワクしたりするような広告はたくさんある。

最近では、缶コーヒーのRootsとジャンプがコラボレーションした「Roots 飲んでゴー」キャンペーンが一番面白かったかな。

ということで、この記事を見た人で面白い広告を知っていたら、ぜひとも自分に教えてください。

2009年10月11日日曜日

タダコピの第2世代モデルが凄いことになりそう

友人がやっている、オーシャナイズという会社があります。
タダコピの会社、といえば分かる方も多いのではないでしょうか。
そのオーシャナイズが、最近面白いリリースを出しました。

無料コピーサービス「タダコピ」に新システム--属性情報から最適な広告を配信
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20401192,00.htm

この記事のポイントは、もちろんここ。
今回導入する新システムは、複合機に専用のアプリケーションを利用するためのタッチパネル端末とFeliCaリーダーを組み合わせたもの。初回利用時には、携帯電話をリーダーにかざし、タッチパネル端末で性別や学年、文系か理系かといった属性情報を登録する必要がある。
インターネット広告が発展し、人に合わせた細かいターゲティングと効果測定が当たり前のものになって久しい。
これをリアル(オフライン)の広告にも持ち込もうという動きは以前からあって、その多くは携帯電話のFelicaを使ってタッチさせて云々、と考えてきました。
だけどアクションのポイント設定が難しくて、これこれこれもあまりうまくいかず、誰もまだ出来てなかったところなんですよね。
今回のタダコピの場合、コピー機という接点・立ち止まらせる場所が元々ある上に、「無料」というモチベーションもあるのでタッチはさせやすいでしょう。
無料のコピーで惹きつけて属性情報管理までやっちゃうのは本当に凄いと思います。えげつないなあ。

あとはこの情報をプラットフォームにして別の広告会社と提携/提供することも出来るし、今までオーシャナイズは大学内に居る学生のみしかターゲットに出来なかったのが、学生が社会人になってからも情報を引き継げる。
端末情報を用いるとのことでユーザーが機種変するタイミングがネックなので、web上でユーザーに便利なサービスを提供するとかしてユーザーを逃さないようにしたいところです。
コピーしたものを同時にスキャンしてweb上で見れるサービスとか出してくれないかなあ・・w

2009年10月4日日曜日

美人時計と、スナップコンテンツの話。

可愛い女の子は、眺めているだけで楽しい。
僕が改めて言うまでもなく、人類普遍の原則ですね。
男だけでなく、女性の方々でも「可愛い女の子が好き」と言っている人は意外と多い気がします。

そんな人の心理をうまく突いたのが、美人時計や、Okappiが紹介してくれた美女暦
最近でははてブニュースでも「美人系サイト」として紹介されました。

かわいい女の子に癒されたい!話題の「美人系サイト」を集めてみた
http://b.hatena.ne.jp/articles/200910/467

なんというか、これらの「美人系サイト」ってざっくり言うと
雑誌のストリートスナップですよね。
特に美人時計なんかを眺めてぼーっとするのは、
雑誌をぱらぱらめくっている感じに非常に近い気がします。

web上でストリートスナップ系のことをするのって
これまであまりうまく行っていなかったのですが、
webとしてのストリートスナップをやろうとすると、
案外この形がh正解になるのかもしれません。

こうなってくると、気になるのはビジネスの方法です。
最近は美人時計もインタレストマッチを貼りまくってかっこ悪いことこの上ないのですが
いくつかビジネス化出来そうな動きは出てきました。

ひとつは本家美人時計。
先月後半に、タレント事務所スターダストプロモーションとの提携が発表されていました。
要は美人時計を使ってアイドルの卵をプロモーションしよう、という路線ですね。
実は以前参加したある勉強会で「webでタレントのプロモーションをする」という
お題が出されたことがあったのですが、その時ジャストアイデアで出したのが
ちょうどこれと同じようにタレント事務所が美人時計(のパクリ)を出して
mixiアプリとして展開、売れないアーティストはまとめて無料で提供して
売れているアーティストは有料販売というものでした。
元々売りたいものがタレントという人であるタレント事務所と
これらのスナップコンテンツは相性は良いように思います。

もうひとつがP-1 girl GP
可愛い女の子が商品PRをして競う、という企画です。
こちらはまだ流行っているわけではないですが、
可愛い女の子で固定ユーザーを付けておいて、
そこで女の子が商品をプロモーションするというのは
スナップコンテンツとも相性の良いやり方だなあと思いました。
(どれだけ効果があるかは議論のあるところですが・・)

個人的には、美人時計のほかにもどんどん同じようなものは出てくるべきだと思います。
先の美人暦やP-1 girl GPも既にそうですが、
韓国でも既に同様のサイトが出来たそうですし
これからスナップコンテンツ×時計という表現方法が、
日本発のスタンダードとなって世界展開されると嬉しいですね。

ひとりごと。
最近、blogを書くネタはたくさんあるのですが、
大仰なことを書こうとするとどうしても長く時間がかかってしまい
結果途中で諦めて出せていない記事がたくさんあります。
今回のぐらい軽い気分でポンポン書いていきたいなあ。

                                 ≫続きを読む

2009年9月13日日曜日

コピーと共有が当たり前の時代にコンテンツでお金を取るヒント

ITproに、アメリカの映像配信サービスの話題が出ていました。

Silverlightベースの「DVD並み」映像配信サービスを英国で開始へ
この記事で注目したいのは以下の部分です。
Tesco店舗のビデオ・タイトル購入者向けサービスとして,「仮想DVD」をダウンロード提供する。パソコンでDVD並みの画質で映像を再生できるうえ,Webコンテンツのようなインタラクティブ操作も可能という。
実際にDVDを購入した人だけがwebから映像を視聴し、それ以外のコンテンツも楽しむことが出来る。
コピーと共有が当たり前の時代に、このようなコンテンツ提供は一つの答えとなるのではないでしょうか。

もう一つ、直近で見た例があります。
最近、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』という本を会社から支給されました。
この本は、体系化された34の強みの中から自分が強みとする5つを見つけ出しそれを活かす、という内容なのですが、この本の一番の価値は本それ自体にあるわけではありません。
一冊一冊の表紙カバーの裏に固有の番号があり、これを入力することでweb上でテストが受けられるようになっているのです。
もちろん同じ番号では2回テストは出来ない仕組みです。
こういう仕組みにすることにより、コピーは役立たなくなり、一人一冊ずつ本を購入しなければならなくなります。
実際会社では、本は読まなくてもwebテストのみ受けるという名目で、数十冊単位で購入がされました。

また、同様のアイデアでは以下のようなものも考えられるでしょう。
  • 本を買うと、web上で本の内容を閲覧することが出来、ケータイで見たり、検索やコピー&ペーストが出来る
  • CDを買うと、ケータイから同じ曲の着メロも使える
これらは、コンテンツの内容は同じであるものを、見せ方や提供の仕方を変えることにより、別の価値を生み出していることが分かります。
そもそものコンテンツ自体は同じものですから、制作のコストはそこまでかからないはずです。
このように、リアルで何かを購入した際に固有の番号で認識をしwebサービスを提供する、という提供方法は、個人的には一つのスタンダードになり得る気がします。

似たような例で、元々無料のコンテンツを有料で売ることも考えられるでしょう。
NHKが皆既日食の映像をYouTubeで公開したときのことを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。
この時、はてブのコメント欄には、YouTubeで公開するという決断を賞賛する声とともに、こんな意見が見られました。
id:T-3don 欲を言うと、何所でも見られる(?)太陽ではなくもっと景色の方を映して欲しかった。
id:kno 周りの景色が半端無く綺麗だった
id:shibashuji 陽も素晴らしいが、水平線360度が明るくて自分の周りだけ暗いなんて、すごすぎる!別撮りした映像があれば是非じっくり見せて欲しい。
id:winter_katze 太陽も良いけど周りの風景をもっと。
id:umakoya すごい・・・。もうちょっと、引いた画を見せてくれ。
id:KOROPPY 太陽の変化はもちろん、周りの風景の変化も幻想的。
総じて、日食中の周りの風景の映像も見てみたい、という意見がとても多かったのです。
この時彼らのコメントを見ながら僕が思ったのは、YouTubeの映像は無料のままで、周りの風景の映像を有料にすればよいのではないかということでした。
途中で映像が切り替わっているということは、カメラは元々2台あって映像は用意出来ているはずですし、これは公開しなければ無駄になるはずの映像だと思います。
コンテンツとしては「皆既日食の瞬間を撮っている映像」ですから、撮り直しなどすることも無く、今ある資源をお金に換えることが出来ます。
テレビにて流した映像がそのまま宣伝となり、別カメラの魅力的な映像をweb上にて有料で提供、というのも考えられるのではないでしょうか。

コンテンツのコピーと共有が当たり前となってしまい、これからの時代、コンテンツをパッケージメディアで売るのはより難しくなるばかりかと思います。
今後はこのように、webコンテンツを提供する代わりにリアルで物を買って貰ったり、無料であったコンテンツの見えない部分をwebで有料提供したり、というのはコンテンツビジネスの新しい形と言えるのではないでしょうか。
僕はwebが大好きで、コピーや共有という思想も個人的には好きではありますが、世の中から優良なコンテンツが無くなってしまうのは悲しいと思っています。
コンテンツでお金儲けをする人たちは、いかに今の時代・今のユーザーに即した方法でコンテンツを買ってもらうかということを、もう一度考えてみてもいいのではないでしょうか。

※参考程度ですが、こちらの記事はこれからの時代必読だと思います。
無料より優れたもの(Better Than Free)
http://memo7.sblo.jp/article/12121626.html

2009年9月3日木曜日

webという四次元ポケットから、次はどんなひみつ道具が飛び出すのだろう。

本日9月3日はドラえもんの誕生日だそうで、Googleのホリデーロゴがドラえもん仕様になっていました。


インターネットはどこでもドアだ」というのはちょくちょく聞くのですが、僕にはなんとなくそれが腑に落ちません。
どちらかと言うと、webはどこでもドアよりも四次元ポケットに近いと思うのです。
せっかくのドラえもんの誕生日なので、今日はそんなお話をします。

どこでもドアは、今いる所から一瞬で行きたい場所に行けるので、要は空間を縮める役割を持った道具です。
対して四次元ポケットは、中に無限にものを入れることが出来ます(細かい設定は分からないですが)。
つまり空間が無限に存在していると言える。
紙のコンテンツとwebコンテンツの比較でも本屋とAmazonの比較でもいいのですが、webも同様に無限の広がりを持っています。
そしてその四次元ポケットの中には、生活を便利にする様々なひみつ道具(webサービス)が潜んでいるのです。

また四次元ポケットには、それと全く同じように使えるスペアが存在しています。
誰が、どこに居ても、スペアポケットさえ持っていれば四次元ポケットの中にあるものを取り出して使えるわけです。
PCやケータイというネットに繋がったデバイスは、正にこの役割を担っていると言えないでしょうか。
現在はみんながスペアポケットを持って、一つの四次元ポケットを共有している状態なのです。
つい最近まで、サービスがどこに居ても提供される様を、空に広がる雲に例えた「Cloud Computing」という言葉が流行っていましたが、僕には四次元ポケットをメタファーとした方が日本人には断然分かりやすい気がします。


では、webが四次元ポケットだとすれば、最初に出てきたどこでもドアは何になるのでしょう。
どこでもドアは、自分が今行きたいと思う場所に一瞬で行けるというひみつ道具です。
webサービスの中で自分が行きたいと思う場所に一瞬で行けるものは何でしょうか。
僕はそれが、検索エンジンなのではないかと思うのです。
特にGoogleの「I'm feeling lucky」には非常に近しいものを感じます。

ここで一つ疑問に思うことがあります。
ドラえもんの話の中で、どこでもドアに並んでよく出てくる道具、タケコプターについてです。
どこでもドアが「行きたいと思う場所に一瞬で行ける」ならば、何故この2つの道具が共存しているのでしょうか。
どこでもドアさえあれば、任意の場所まで飛んでいかなければならないタケコプターは必要ない気がしてしまいます。
微かな記憶を頼りにドラえもんの作中でどこでもドアとタケコプターがどのように使い分けをされていたかを思い出してみると、確か「のび太の居場所が分からないけど探すとき」や「初めて行った場所を探検するとき」、或いは「飛ぶこと自体を楽しむとき」だったような気がします。
つまり
  1. 目的地は分からないまま、自分の周辺から手当たり次第に探すとき
  2. 探すという目的はなく、その時間の過ごし方自体を楽しむとき
なんかは、検索よりも良い方法があるのかもしれません。
「検索ワードは思い浮かばないけど探し物をしたい」「単純に暇つぶしをして楽しみたい」というニーズは確かにありますよね。
タケコプターをwebに落とし込んだら流行るかもしれないなあ・・・。


というようなことが、学生の頃のネタ帳に書いてありました。
そんなことを考えてから2年ほど経ち、いまwebサービスの世界には新たな波がやってきています。
twitterやFacebookなどのソーシャル系のサービスは正に上記のような使い方をされているのではないでしょうか。
ここまで近いと、藤子・F・不二雄氏はwebの誕生を予見していたのではないかなんて邪推もしたくなります。
そう言えばアンキパンとか翻訳コンニャクなんかも既にwebサービスとして生まれてきていますよね。
まだまだこれからも、webという四次元ポケットからは面白いひみつ道具が生まれて来そうな気がしました。
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2009年8月31日月曜日

SEX AND THE CITY THE MOVIEとAppleのマーケティング 

週末にSEX AND THE CITY THE MOVIEのDVDを借りてみました。そうしたら、劇中にApple社製品が次々に出てきて、ケリー(サラジェシカパーカー)によってかなり目立つ使われ方がされていました。

確かに、SEX AND THE CITYが好きな女性層へアプローチする事は、Apple社にとってすごく効果的なマーケティングになります。




私はこれまでSATCをドラマで観た事はあまりなかったのですが、出演者たちのファッションは非常に素敵で、彼女たち自身も魅力的です。いわゆるガールズトークも面白くてしょうがないのですが、彼女たちの友情には時折感動させられる場面があります。また、恋愛が人生において重要な部分を占めるということを再認識させられます。


映画の中ではケリーが黒のMacbookやMacbook Proを使用している光景がよく映し出されました。極めつけだったのが、ケリーがウェディングドレスを着て、ビッグに電話をかけるシーンでした。彼女は携帯電話を持ち歩いていませんでした。いつまでたってもビッグが結婚式場に現れないので、彼に電話をかけようとして、サマンサから携帯を借りますが、この携帯電話はiPhoneでした。ケリーが持ったiPhoneが1、2秒映し出され、「使い方がわからないわ」と言って捨ててしまいます。


一見、「iPhoneって難しいんだ」という印象を女性に与えてしまうかもしれませんが、ケリーやサマンサたちのようなファッショナブルな女性がそれを使う事によって、機能が使いこなせなくてもかわいいから持ちたい、という女性の購買意欲をそそります。もちろん、彼女たちが世界の女性に与える影響力も非常に大きいです。(ちなみに、中国でも「欲望都市」というタイトルで映画館等で放映されました。)


女性をターゲットにした新しいメディア「Glam.jp」でも、立て続けにiPhone特集や、iPhone座談会、そして、iPhoneを使用させて専属のブロガーに記事を書いてもらうといったプロモーションを行い、いわゆるアーリーアダプターやギークといった層とは異なるユーザーを開拓するために、「おしゃれなケータイ」としてアピールしています。



このようなプロモーションは非常に有効的で、通勤時の都内のバスや電車などでもおしゃれな20代後半から30代くらいの女性が使いこなしている光景をよく見るようになりました。先月、縁があって、モリハナエさんの講演を聴講しに行きましたが、やはりその年代の女性はiPhoneを使用しており、録音機能を使って講演を録音している人もいました。都市部を中心として、iPhoneの女性ユーザーが徐々に増加しているようです。実際にiPhoneを使用している知人女性に使用状況を伺いましたが、アプリケーションのダウンロードも思ったよりも簡単で使いやすいと言っていました。自慢げに産経新聞のアプリケーションを見せてくれた事がかわいらしかったです。


映画やゲームの中で商品を登場させるというのは、古くから使用されている広告手法ですが、これを発見するたびにその商品を所有する喜びが増すのだと思います。最近では、自分のアバターを着せ替えられる「プーペガール」内でのファッションやコスメ関連の広告もよく話題に取り上げられており、私自信が個人的に興味を持っています。9月2日に行われるad;tech Tokyoでも、「アドバーゲーミング」というセッションでプーペガール主宰の方を交えて、comScoreの佐藤氏たちと議論されますので、こちらを聴講してきたいと思います。なんだか日記風な記事になっていますが、たまにはこういうのもいいかなと。それではまた。




2009年8月30日日曜日

これからのビジネスモデル、Freemium(フリーミアム)について考えてみる

以前、TechCrunchに「ロングテール」のアンダーソンが提唱する直感に反したオンラインメディア料金体系という記事が掲載されました。
また7月7日には、そのアンダーソンの最新刊"Free: The Future of a Radical Price"(以下"Free”)が発売になりました。
個人的には、Freemiumを含む、無料化の波というのはこれからの時代において非常に重要になってくるであろうと感じています。
そこで今回は、Freemiumを中心に無料化の流れについて考えてみたいと思います。

Freemiumモデルとは、Free+Premium、つまり無料版と付加価値の高い有料版を組み合わせたサービスモデルのことを指します。
この概念自体は2006年からあり、ベンチャー投資家のFred Wilsonが提唱したとのこと。
Wikipediaの説明を読むに、当時は広告モデルも含んでいたようですが、今は別のものとして語られることが多いように思います。
それが今、webでの無料モデルが壊れかかっている時期とアンダーソンが"Free"を出すタイミングが重なり、再注目されているという状況です。

ではこのFreemiumモデルは、これまでのビジネスモデルと比較するとどんなモデルに近いのでしょうか。
無料と有料という意味では、カミソリの柄の部分を無料で配り、替え刃の販売で後からコストを回収するというカミソリ型のビジネスモデルと比較して論じられることが多いようです。
実際、"Free"の予告編とも言えるWiredの特集でアンダーソンは、ジレット社の事例を皮切りに無料経済の話を始めています。
このモデルのキモは、一度カミソリの柄を買うとそれに合う同社の替え刃を買わなくてはいけない、というところにあります。
つまり、最初にハードが決定されてしまうことにより顧客を囲い込むことが出来、その後も継続的に収益が生み出されることになるのです。
他にも、コピー機やゲーム機、運用・メンテナンスで儲けるタイプのシステム開発やエレベーターなどがこのモデルに当てはまると言えるでしょう。

しかしFreemiumモデルは必ずしもハードにロックインされて後の収益が生まれるというわけではありません。
個人的にFreemiumは、『ザ・プロフィット』によるところの「製品ピラミッドモデル」の特殊なパターンとして理解した方が分かりやすい気がします。

製品ピラミッドモデルとは、ある製品カテゴリにおいて、一つの企業が顧客ごとに製品を分け、ピラミッドのように段階的なレベルを設定するモデルを言います。
ピラミッドの図を想像しても分かるように、最下層にあたる最も価格の低い製品が大量に販売され、頂上にあたる最も価格の高い製品は少量販売されます。
この時、最も利益を生み出すのは頂上にあたる高付加価値製品になります。

では、何故ピラミッドの底辺部分の製品が必要になるのでしょうか。
これを理解するため、まずは『ザ・プロフィット』より、製品ピラミッドモデルをバービー人形の例で解説した部分を抜き出します。
バービー人形は、20ドルとか30ドルとかで売られている。他社はこの低価格市場には簡単に参入できる。そこで必要なのが防火壁(ファイアウォール)だ。他社の追随を防ぐために、10ドルのバービー人形を売り出して廉価市場への他社の参入を封じ込める。ここではほとんど利益は上がらないが、他社が自社の顧客との関係を結ぶ道を塞ぐことはできる。それに、最初は10ドルの人形しか買わなかった顧客も、やがてはアクセサリーや他の人形が欲しくなるものだ。その部分ではそれなりの利益が上がる。 しかし、(バービーを販売している)マテルはさらに本当の意味での成功を収めるために、廉価市場とは対極的な方向にも目を向けた。そして、登場したのが100ドル、200ドルの市場だ。
重要なポイントはずばり「防火壁」。
他社が追随出来ないような廉価でエントリー製品を提供することにより、他社への参入障壁を高くすることが出来ます。
さらに付け加えると、廉価製品は顧客を集める役割も担っています。
廉価製品で集客し、かつ他社参入を防ぎつつ、高付加価値製品で利益を生み出すというのがこのモデルの特徴と言えるでしょう。
(この考え方は、フロントエンド商品/バックエンド商品という言い方もされるようです)
このモデルを利用しているのは、人形以外にも、自動車、腕時計、クレジットカード、最近ではiPodなんかが思い当たりますね。

Freemiumモデルの場合、上記の「他社の追随出来ないような廉価」が無料になっているというわけです。
ただの廉価よりも無料の方が顧客に対するインパクトは強いはずですから、通常の製品ピラミッドモデル以上に他社にとっての参入障壁が高くなります。
また、そのインパクトから、無料化は集客としても非常に強い手段です。
Googleが、他社が有料で提供しているようなサービスを無料で提供して話題を集めたのは記憶に新しいですよね。

このFreemiumモデルは、今や様々なwebサービスに採用されています。
その価格やFreemium Rate(提供された有料サービスに対する無料サービスの比率)が正しいかどうかは別として、Yahoo!、mixi、はてな等、国内の主要なwebサービスの多くがFreemiumモデルを採用していると言えます。
一時期「無料モデルは終わった」ということを言う人たちが居ましたが、僕はそうは思いません。
「とりあえず無料にしてみる」というブームは去りつつありますが、それは無料化が戦略として見直されているからこそです。

マスメディアのビジネスモデルが崩壊しかけている今、新聞社ではwebへの記事の無料提供をやめて有料化しようという声が上がっています。
しかし以前こちらのエントリでも書いたように、web上にはブロガーのように無料で文字を書く人が大勢居ます。
web上のコンテンツとしてこれと争うためには、有料と無料の丁度良いバランスを見極めなければなりません。
今後新聞社などの既存のメディア企業がいかにこのFreemiumモデルを使っていくかがポイントとなりそうです。




                   ≫Freemiumモデルについての詳細を読む

2009年8月29日土曜日

Charlene Li率いるAltimeter Groupへ、ソーシャルメディアマーケティングのベテランがパートナーとして次々に参加

米国時間の8月27日に、「グランズウェル」著者のCharlene Liが創設したAltimeter Groupは、同組織にソーシャルメディアのベテラン、Jeremiah Owyang、Deb SchultzとRay Wangらが参加することを発表した。ソーシャルメディアやそれに付随するテクノロジーの業界の中でも、この三名は卓越した専門性を持つ著名な専門家であり、様々な場所で活躍している。日々進化を続けるソーシャルテクノロジーとの関わり方や活用に頭を悩ませる企業にとって、彼らのような存在は非常に心強いパートナーとなるだろう。







Jeremiah OwyangはこれまでForrester ResearchのSenior Analyst, Social Computingとして活躍してきた。彼自身のブログWeb-StrategistはAdAgeなどの有力ブログランキングでも上位にランクされるほど著名なブログである。Forrester時代には数々のレポートの執筆、様々な企業へのコンサルティングなど手がけてきた。


Deborah Schultzは現在P&Gのソーシャルメディアラボのコンサルタントとしても活躍する


Ray WangはERPやCRMといったビジネスアプリケーションの専門であり、エンタープライズアプリケーション導入と活用を支援してきた。


今回の組織編成により、Altimeter Groupはそれぞれのパートナーの強みを活かし、Leadership, Customer, EnterpriseとInnovationを包括するホリスティックアプローチを提唱している。





Charlene Liは進化するテクノロジーに対応するために、組織に必要とされる文化や組織構造を最適な方向へ導くことに注力する。Deb Schultzは革新的なコンセプトの立案者として、“The Hangar”というラボで研究を進める。Jeremiah Owyangは進化するテクノロジーへの顧客戦略に注力する。Ray Wangは組織内部の活動にフォーカスする。彼自身のエンタープライズアプリケーションに関する深い理解と洞察を活かし、企業に対してトラディショナルなシステムから、新たな“social CRMデータを蓄積できるエンタープライズシステムへの転換を支援する。また、Rayは組織に対して新しいソーシャルエンタープライズアプリケーションとクラウドコンピューティング技術のパワーを社員やパートナーへ理解させることもサポートする。



現在の経済環境はもちろんのこと、変化の激しい業界では、「卓越性 x アライアンス」が生き残り、躍進の重要な鍵となる。進化を続けるソーシャルテクノロジーと、そこに参加するユーザーを掴みきれないまま、風船が空に飛んで行ってしまうように取り残されてしまっている企業もある。今まさに起こっているパラダイムシフトに対応するために、組織はAltimeter Groupのような専門家集団を待ち望んでいたと思う。まさに集まるべくして編成された組織。今後の活躍に期待したい。



2009年8月21日金曜日

グランズウェル著者が語るソーシャルメディアマーケティングで重要な3つのこと/SES San Jose 2009でのCharlene Liによる基調講演

去る8月10日から14日にSES SanJose2009が開催された。残念ながら私は参加することができなかったが、「グランズウェル」で有名なCharlene Liが基調講演を行い、このライブレポートやスライド、動画がオンライン上に上がっていたので紹介したい。



少し前に社内で海外のソーシャルメディアマーケティング事例に関して説明する必要があったので、彼女の記事や講演の音声/動画を追いかけていたが、基本的に今の彼女のメッセージは以下の三つから成っている:

1) Social Networkは空気のような存在になる
2) テクノロジーではなく関係性にフォーカスすること
3) 消費者/顧客の声を「傾聴」し「対話」+「支援」+「活性化」すること

1) はソーシャルグラフのポータビリティ性が与える影響に関して述べている。Razorfish社のShiv Singhが例示したAmazonやITunes Storeでの活用例を使用してその可能性を示している。




2) では、文字通り無数にあるソーシャルテクノロジーばかりに気をとられるのではなく、顧客と最適な関係性を構築することを中心に考える必要があるというメッセージだ。
3) は、彼女の著書「グランズウェル」で紹介されていた、戦略に関する流れである。この戦略に従い、目的に合わせて適切なテクノロジーを活用することにより、顧客との関係性をより深める事ができ、また活性化させることが可能となる。




SES SanJose 2009ではCharlene Liが基調講演に登壇することを早い段階からリリースしていたので、検索に関連して興味深い洞察を聞くことができるかと期待していた。しかし、講演のスライドやライブレポートを読む限り、BingやFacebook とTwitterのリアルタイム検索といった最近の検索業界におけるトピックスを加えるのみにとどまり、基本的にこれまでの彼女の持論から外れる事は無かった。結局、何事にも言えることだが、ソーシャルメディアマーケティングにおける基本は普遍的であり、無駄に化粧を施す必要は無い。新たなテクノロジーが登場したとしても、企業側が顧客とどのような関係性を構築したいかを中心に思索することによって、その都度最適な取捨選択ができるということだろう。

日本国内でも多くの場所でソーシャルテクノロジーを活用したマーケティング手法に関して議論がなされている。しかし、欧米では多くの企業が様々な用途で活用し始めているTwitterやFacebookに関しても、日本ではまだ試行錯誤の段階である。Twitterに関しては徐々に一般ユーザーへ広がっていくことが予想できるが、Facebookはクラウドソーシングによって日本語化はされているものの、海外在住経験者といった特定の人々にしか利用されていない。実際にFacebook Adsの属性ターゲティング設定画面で確認すると、2009年8月の段階で日本在住者は約60万人である。そのうち、アクティブなユーザーのみ、また、日本語を話す人のみに限定すれば、半分以下になる。Facebookはこのあたりの問題に気づきはじめたのか、これまで英語版で「Poke」となっていたものを「ポークする」とそのまま訳していたが、最近は「あいさつをする」というように徐々にローカライズの精度を向上させている。だが、mixiやGREEに慣れている一般的な日本人ユーザーを、いわゆるセカンドSNSとして利用させるには、まだインセンティブが弱く、第一インターフェースで右往左往させてしまうだろう。この問題を今後どのように解決していき、ユーザー数を獲得し、欧米のようなマーケティングツールとして活用されていくのか(否か)楽しみである。私個人的には、友達がアップロードした写真に対して「いいね」というボタンをクリックして、反応できるところや、あたりまえだが通常のSNSと同様にメッセージが送受信でき、いわばライトからハードまで多様なコミュニケーションをとることができるのは魅力的だと考えている。


最後に、SES SanJose2009での講演とインタビューがまとめられた動画を以下に紹介する (静止状態だと変な顔になってしまっている。申し訳ない。これを治してあげることはできないのかな?):




  

2009年7月22日水曜日

企業と広告、女性と化粧。

以前、DoveがYouTubeで展開した、Evolutionというキャンペーンを覚えているでしょうか。
女性が、化粧と撮影と画像加工によって美しい姿となり、それが広告として貼り出されるという内容でした。

このキャンペーンの上手さはそのインパクトだけではなく、女性の化粧を広告というメタファーに置いたところにもあったように思います。
企業と広告の関係は、女性と化粧の関係と近いのではないでしょうか。
両社の目的を、分かりやすく示してみましょう。
  • 女性は、自分を良く見せるために化粧をする。
    (副次的な目的として、自分に自信を持つことができる。)
  • 企業は、自社を良く見せるために広告をする。
    (副次的な目的として、自社に自信を持つことができる。)
やはりこの2つには非常に近いものを感じるのです。
広告の話をする時に、企業と消費者の関係性は男女の関係性に例えられることがよくありますが、広告はラブレターなどではなく化粧だったのではないでしょうか。

70~80年代の女性の写真を今見ると、なんだか違和感を感じます。
それは化粧が濃く、今とは化粧の仕方が違うからです。
それに比べ今の女性は、より自然な感じの化粧が多い気がします。
(一方で、化粧が濃くてもその方法によっては全然アリだったりもするようですが)

今までは「濃かった」広告も、それが誇張だと分かった途端に男たちは引いてしまう。
だからこれからは、きっとナチュラルメイクが多くなります。
それは、その企業本来の良さを引き出す広告です。

もちろん、化粧をすることで女性はより美しくなれます。
しかしながら、自分の前でスッピンになってくれない女性と、男は結婚しようと思うのでしょうか。
男はずっと化粧をしているよりも、自分の前でスッピンになってくれる女性を好むようです。
(そして男がスッピンだと思っているそれは、ナチュラルメイクだったりもするのかもしれません)

だから、もう厚く塗りたくるだけの広告はやめませんか?
ファンデーションやマスカラをどれだけ消費したかで化粧のうまさを測るのは何か間違っている気がします。
これからはもっと自分を正直にさらけ出さないと、一生付き合いたいと思ってくれる男性は現れませんよ。きっと。

そんなことを考えながら、今日は帰ってきました。

   

2009年6月27日土曜日

いちはてブユーザーとして、ヱヴァタイアップには強く抗議したい。

ただの意見表明だけど、これは言っておきたい。

本日から、はてなブックマークのトップページが「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」の公開に合わせてタイアップデザインになっている。


そこまではいい。
ターゲットも合っているだろうし、デザインで遊ぶのも良いと思う。

ただ、どうしても納得出来ないのが「いま話題」欄までヱヴァタイアップになっていることだ。
ここははてブで話題になっているものを表示するスペースであって、決して広告枠ではなかったはずだ。
本当に話題になっているのかとも思ったが、バナーが貼ってあるので恐らく広告枠として売ったのだろう(再追記:広告枠ではなく、金銭の授受は無いとのこと。追記と訂正、およびコメント欄をご覧下さい)。
仮にもはてなブックマークという、それなりにユーザーが居るメディアを持つ企業がこれをやってはいけないと思う。
メディアはユーザーに対して、コンテンツと広告の違いを明示する必要がある。
もしもこれが許されるなら、Yahoo!はニュースのリンクに広告を紛れ込ませてもいいし、検索結果とリスティング広告を混ぜて表示してもいいことになってしまう。

誰も言及している人が居なかったから、みんなそんなに気にしていないのかもしれないけれど、はてブがソーシャルメディアとしての最低限の健全性を守って成長していくためにもこのラインは守ってほしいと思う。
というわけで、はてな好きだからこそ断固反対するエントリ。

(あわあわしながらの)追記と訂正。
コメント欄にて、id:naoyaさんが直々に答えて下さいました。
今回のタイアップは広告欄ではないとのことです。
自分の早とちりもあり、こちらに関しては大変失礼致しました。
ただ、やはりはてなブックマークはソーシャルメディアですし、「いま話題」というのは話題になっていることを載せて欲しいというのが個人的な思いです。
「●●欲しい!」等の分かりやすく、ユーザーも嬉しいプロモーションは大好きですので、提示の仕方を少し変えて頂けるとベストかと思います。

こうやってユーザーに直にコミュニケーションを取る姿勢はすごいと思います。
あと、基本的にははてな大好きです。
今後とも宜しくお願い致します。

2009年6月20日土曜日

ぐるなび「赤坂もつ千」に見る、これからのマーケティングのポイント5つ

はてなブックマークで、あるもつ焼居酒屋が話題になっています。
それが、ここ。

もつ焼き処 赤坂もつ千
http://r.gnavi.co.jp/e432800/

読んでもらえば分かるのですが、とにかく宣伝方法が凄い。
「ご予約は丁寧にお断り中!!個室ももちろんご用意しておりません!!」から始まり、とにかく自分のお店を卑下しまくるという内容です。ざっくり言うと。

で、たぶんやっている側は全く意識していないと思うんですが、この手法には、幾つかの重要な要素が隠れている気がします。
今回はそれをちょっとまとめてみましょう。
  1. リスクを負うことで生み出す信用
  2. ネタ性でつくる話題
  3. 自分で確かめるための行動喚起
  4. 期待値調整
  5. 根幹となる商品・サービス

2009年6月14日日曜日

Amazon Kindle DX買ってみた。使ってみた。レビューしてみた。

こんにちは。初投稿のtadateruです。
僕の詳しい自己紹介は今度します。

どちらかというとKindleの方を一刻も早く紹介したいです。

僕は現在サンフランシスコ在住なのですが、本日、注文していたAmazon Kindle DXが届きました。



実はアメリカには引っ越してきたばかりで、デジカメは持ってきたもののSDカードリーダーやUSBケーブルが無いというお粗末な状況です。奇麗な写真は時間があれば後から追加するとして、日本語最速レビューを目指してiPhoneのカメラで頑張りたいと思います。
わくわくしすぎて何も考えずに一回起動しちゃったので、今回は開封時の再現からはじめます。

* * *


まず箱から。

さすがAmazonというべきか、全体的に段ボールの"味"をうまく使っています。
写真は可愛いバーコード。




段ボールの内側が上質の黒です。ちょっと驚きました。



内蓋を取ると、いきなり本体。いい感じです。

ちなみに、画像ではなにやら絵が表示されちゃってますが、
電子ペーパーの画面には初め、
電源ケーブルを挿したら起動するよって書いてありました。

起動前の製品にありがちなシールによる表示じゃないのが、
書き換え以外電力要らずの電子ペーパーならでは。





本体を抜いたら、電源ケーブルと、本当に簡単な説明書だけ。


* * *

本体について


起動したての画面。さっきのバーコードはこの絵ですね。



外観はこんな感じ。持ってみた感じは非常に軽い。そして薄い。



裏面はステンレス?
安っぽさと軽量化をギリギリのレベルでバランスとってる感じ。

鉛筆と比較する人は多いと思いますけど一応やってみました。


起動してすぐに、携帯電話ネットワーク網とつながったようで、
何もしてないのに"welcome tad!"的なファイルがでてきて驚きました。
Amazonアカウントと連動してるから何の設定も必要ないみたい。





操作の系統はシンプルなのですが、結構使いづらいです。
各ボタンが小さいのとフィードバックが弱いのとで、
操作している時のクリック感や気持ちよさはないです。

右端の正方形のボタンが5way key(クリッカブルな十字キー)です。

* * *

Kindle Store、読書と読書の円滑化


本体内にPDFの詳しい取説が入っていますが、もちろん取説など読みません。
すぐにMenuボタンからKindle Storeにアクセス。
Amazon.comと同じリコメンドや、新聞や雑誌等のメニューが並びます。



キーボードから入力。予想通り少し打ちづらいです。 inside steve's br...

brain!

読みたかったけどKindleのためにとっておいた本です。
Kindle価格は少し安くなっているみたい。
でもAmazon.comで見ても同じぐらい安かった(+$2)です。


買う前にサンプルが読めるようなのでTryしてみます。


ダウンロード中の画面です。
サンプルのダウンロードは1分程度で終わりました。




ここまで、ネットワーク関係の特別な設定は何もしていません。
携帯電話のネットワーク網を使っているんですよね。
通信費も気にしなくていいみたいです。


Cover。



目次はハイパーリンクになっていて、飛べます。



電子ペーパーの解像度が高く、視認性はとってもいいのですが、
コントラストの低さや反射が少し気になる時があります。


5way keyを操作すると単語ごとにカーソルが動きます。
辞書機能はどこかと一瞬探したのですが、なんと!
目当ての単語にカーソルを置いただけで自動的に意味を表示してくれます。
速い…。これはとっても助かります。


試しに"Jobs"で調べてみると・・・
ふむふむ、
Steven (Paul) (1955- ) U.S. computer entrepreneur. He set up the Apple Computer...
って、Steve Jobs本人じゃないですか。
なるほど、ニュース記事を読む時のために、
各界の著名人も辞書入りしてるわけですね。

素晴らしい!外国人には本当に助かります!



ちなみにここでエンターキーを押すと、
読んでいた本は一度閉じられて辞書が開きます。

意味がたくさんある語句は簡易版では表示できませんからね。





BACKボタンを押せばすぐに読書に戻れます。
操作系統で唯一誉めてあげたいのはこのBACKボタンです。
直前の動作が何であるかに関わらず、戻ってくれるようです。
決定ボタンの真下にあることで、操作がかなりスムーズです。




5way keyをクリックする(不安げに押し込む)と、
ハイライターの機能が使えます。

キーボード入力でノートを付けることもできます。
(写真は時間ある時にでも撮ります)



ハイライトした部分やノートを付けた部分は、
あとからまとめて確認することができます。
前後の文脈まで表示してくれて、よく出来ています。

もう付箋を貼ったりページの端を折り曲げたりしなくていいんですね!




もちろん、検索もできます。

検索結果の画面も、前後の文脈を合わせて表示してくれます。




文字サイズや表示領域を変えることができます。
変更後の写真は割愛。


text to speechと見えると思いますが、この機能はちょっと感動しました。
テキストを割と流暢に読み上げてくれます。
ちょっと不自然な読み上げもたまにありますが、
読む←→聞くをシームレスに行ったり来たりできるのは、
ちょっと新しい体験ではないでしょうか。


* * *



PDF閲覧機能


USBケーブルで本体とPCを繋げば、
PDFを転送して閲覧できると聞いたのでやってみました。


PDFを表示してみました。

ちなみに写真の方は大学時代の恩師で、
その下の写真は僕が彼の研究会に所属していた時の活動です。




傾けた方向に自動的にrotateします。この機能は切ることもできます。
寝っころがって読みたい時もありますもんね!


拡大しても、写真の質感は悪くないです。




次はScansnapでスキャンした本のデータです。
画像データのPDFなので文字化けしません。



漫画はこんな感じです。

・・・いいですね!最高!


個人的な話ですが、実は4年間(予定)の渡米が決まってから、
Scansnapで本や漫画を大量にスキャンしました。
PDFで本を数百冊持ってきているので、快適に読む方法を探していました。
Kindle DXは最高のパートナーになってくれそうです。



* * *


本とかPDFを読む以外の機能


prototypeまたはexperimentと宣言して、
いくつかの機能が付加的に入っています。

ウェブブラウザ、読書中の音楽再生、テキストトゥスピーチの3つです。



webを表示した時はこんな感じ。
日本語の文字は残念ながら表示されません。

スクリーンセーバ作動時の文豪画像が何十種類もあって、飽きない。
こういう工夫は使う楽しさや新鮮さをキープしてくれるので良いですね。


* * *



ふう、以上です。





総括


以上、あまりまとまりがなく散らかったレポートだったと思いますが、いかがでしたでしょうか。


僕自身は、電子ペーパーのデバイスは、2年前にiLiadを使っていたことがあるのですが、ただでさえレスポンスの遅い電子ペーパーディスプレイに、難解な操作系統を求められたため、ストレスに耐えながら使用していました。
その時に比べると、Kindleはかなり操作系統はシンプルだし、レスポンスも十分速いと思います。画面の解像度もグレースケールの階調もかなりアップしていて、2インチの差はものすごく大きく感じました。


ですが、Kindleの操作感も決して気持ちのいいものではないです。電子ペーパーのレスポンスはいくら速くなっても"待つ"感覚があります。表示の切り替えに即時性がないことは、レスポンス時間の問題だけではありません。アニメーションという、操作の気持ちよさやフィードバックの正確性を構成する上で重要な要素がすっぽり抜け落ちているため、電子ペーパー技術の進歩を待つ前に何らかの工夫が必要です。
また、入力インターフェイスに関しても貧弱なものであることは否めません。用途が閲覧なので、性質として入力頻度がそこまで高い機械ではないですが、ボタンに関しては見た目と生産のしやすさ重視な感じがムンムンです。配置や配列も改善の余地があります。総合的に見て、読書体験はまだ本の方が勝っています


とはいえ、現行の電子書籍端末と比較すると、完成度は非常に高いです。
日本にいる自炊派の電子書籍ユーザーが、単なるビューアとして買ったとしても十分に活用できるデバイスだと思います。(追記:日本語のフォントが埋め込まれているPDFファイルが読めるとの情報もあるようです。)
ちなみに(うろ憶えの知識ですが)他社も新製品を出しています。日本ではAmazon Kindleよりも手に入れやすい製品もあると思いますが、他の製品は帯に短し襷に長しなものが多いです。coolerは安いけど旧世代の電子ペーパーの在庫処分みたいな印象を受けますし、新しい大型のiLiadは機能を持たせすぎているためか価格が非常に高いです。Sony Readerも画面のサイズが足りない印象を受けています。液晶画面でもOKならcrunch padも選択肢に上がるかもしれません。



Kindleは、何の制約もなしに単純な転送だけでPDFがそのまま読めて、このサイズの電子ペーパー、この軽さと薄さを備えていながら$500という価格で、非常に競争力があります。まだ高いって言ってる方もいるみたいですが、今までの電子書籍デバイス状況を知っている身からすると、Kindle Storeが使えない分を差し引いてもまだ安く思えます。


近頃はiPhoneで読書される方も増えているようですが、専用機器でできるだけリッチな体験をするのも良いものだと思います。iPhoneの読書アプリにもかなりいいものがそろってきていますが、画面のサイズと解像度だけは変えようがありません。僕自身は、読書は画面の大きさで体験の豊かさがかなり左右されるように思います。
ということで、繰り返しになりますが、Kindleは日本在住の方でも、用途によっては十分考慮すべきデバイスです。


さいごに、深読み。
Kindleは一年半前に発売されたにも関わらず、もう三機種目ですが、果たしてどれだけ売れているのかは疑問です。サンフランシスコに来て一ヶ月、たくさんカフェに行きました。一台ぐらい見てもいいものですが、持っている人を見たことがありません。Amazonは最初から立て続けに新機種を発表することで話題を維持し続けつつ、アーリーアダプターだけに狙いを絞って電子ペーパーの価格を下げながら製品の品質をじわじわ向上させる戦略に出ているように思えます。かつてソニーや松下が消費者の顔色をうかがいながら新製品を恐る恐る出したのと対照的に、売れるか売れないかに関わらず新製品を用意し続けているKindle Projectには…Amazonの本気度を感じます。個人的にはKindle DXもAmazonの本命ではないような気がしています。
おしまい。



追記 (14日 AM2:58JST)

本体内のマニュアルには、ファイルのサポートについて以下のようにかいてありました。
(Kindle本体のハイライト機能によるテキスト抽出を使ってみました。)
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Kindle DX User's Guide (Amazon.com)
- Highlight Loc. 1119-26 | Added on Saturday, June 13, 2009, 10:31 AM

Supported Formats for Conversion In addition to the file formats listed above, you can also convert other personal documents to read on your Kindle. The supported file formats are listed below: • Microsoft Word (.DOC) • Structured HTML (.HTML, .HTM) • Text and RTF (.TXT, .RTF) • JPEG (.JPEG, .JPG) • GIF (.GIF) • PNG (.PNG) • BMP (.BMP) • Compressed ZIP (.ZIP)
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試しに手持ちのjpg漫画ファイルをzip化してみたら読めました。画面左上にディレクトリ構造らしき表示が見えると思います。表示はできるものの、画像サイズによっては少し重たいです。またjpgファイルの場合PDFと違ってページ移動のランダムアクセスができません。jpg自炊派の方には、あまり使い勝手がいいとは言えないかもしれません。
(やり方が悪いのか、zipとpdf以外のファイルの表示には今のところ何故か失敗しています…)

それから日本語はフォントが入っていないため、ファイル名の日本語は表示されません。また、自分ではまだ試していませんが、
日本語フォントが埋め込んであれば日本語表示可能。ただしフォントサイズ調節不可という報告をしている方もいます。

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