2009年8月31日月曜日

SEX AND THE CITY THE MOVIEとAppleのマーケティング 

週末にSEX AND THE CITY THE MOVIEのDVDを借りてみました。そうしたら、劇中にApple社製品が次々に出てきて、ケリー(サラジェシカパーカー)によってかなり目立つ使われ方がされていました。

確かに、SEX AND THE CITYが好きな女性層へアプローチする事は、Apple社にとってすごく効果的なマーケティングになります。




私はこれまでSATCをドラマで観た事はあまりなかったのですが、出演者たちのファッションは非常に素敵で、彼女たち自身も魅力的です。いわゆるガールズトークも面白くてしょうがないのですが、彼女たちの友情には時折感動させられる場面があります。また、恋愛が人生において重要な部分を占めるということを再認識させられます。


映画の中ではケリーが黒のMacbookやMacbook Proを使用している光景がよく映し出されました。極めつけだったのが、ケリーがウェディングドレスを着て、ビッグに電話をかけるシーンでした。彼女は携帯電話を持ち歩いていませんでした。いつまでたってもビッグが結婚式場に現れないので、彼に電話をかけようとして、サマンサから携帯を借りますが、この携帯電話はiPhoneでした。ケリーが持ったiPhoneが1、2秒映し出され、「使い方がわからないわ」と言って捨ててしまいます。


一見、「iPhoneって難しいんだ」という印象を女性に与えてしまうかもしれませんが、ケリーやサマンサたちのようなファッショナブルな女性がそれを使う事によって、機能が使いこなせなくてもかわいいから持ちたい、という女性の購買意欲をそそります。もちろん、彼女たちが世界の女性に与える影響力も非常に大きいです。(ちなみに、中国でも「欲望都市」というタイトルで映画館等で放映されました。)


女性をターゲットにした新しいメディア「Glam.jp」でも、立て続けにiPhone特集や、iPhone座談会、そして、iPhoneを使用させて専属のブロガーに記事を書いてもらうといったプロモーションを行い、いわゆるアーリーアダプターやギークといった層とは異なるユーザーを開拓するために、「おしゃれなケータイ」としてアピールしています。



このようなプロモーションは非常に有効的で、通勤時の都内のバスや電車などでもおしゃれな20代後半から30代くらいの女性が使いこなしている光景をよく見るようになりました。先月、縁があって、モリハナエさんの講演を聴講しに行きましたが、やはりその年代の女性はiPhoneを使用しており、録音機能を使って講演を録音している人もいました。都市部を中心として、iPhoneの女性ユーザーが徐々に増加しているようです。実際にiPhoneを使用している知人女性に使用状況を伺いましたが、アプリケーションのダウンロードも思ったよりも簡単で使いやすいと言っていました。自慢げに産経新聞のアプリケーションを見せてくれた事がかわいらしかったです。


映画やゲームの中で商品を登場させるというのは、古くから使用されている広告手法ですが、これを発見するたびにその商品を所有する喜びが増すのだと思います。最近では、自分のアバターを着せ替えられる「プーペガール」内でのファッションやコスメ関連の広告もよく話題に取り上げられており、私自信が個人的に興味を持っています。9月2日に行われるad;tech Tokyoでも、「アドバーゲーミング」というセッションでプーペガール主宰の方を交えて、comScoreの佐藤氏たちと議論されますので、こちらを聴講してきたいと思います。なんだか日記風な記事になっていますが、たまにはこういうのもいいかなと。それではまた。




2009年8月30日日曜日

これからのビジネスモデル、Freemium(フリーミアム)について考えてみる

以前、TechCrunchに「ロングテール」のアンダーソンが提唱する直感に反したオンラインメディア料金体系という記事が掲載されました。
また7月7日には、そのアンダーソンの最新刊"Free: The Future of a Radical Price"(以下"Free”)が発売になりました。
個人的には、Freemiumを含む、無料化の波というのはこれからの時代において非常に重要になってくるであろうと感じています。
そこで今回は、Freemiumを中心に無料化の流れについて考えてみたいと思います。

Freemiumモデルとは、Free+Premium、つまり無料版と付加価値の高い有料版を組み合わせたサービスモデルのことを指します。
この概念自体は2006年からあり、ベンチャー投資家のFred Wilsonが提唱したとのこと。
Wikipediaの説明を読むに、当時は広告モデルも含んでいたようですが、今は別のものとして語られることが多いように思います。
それが今、webでの無料モデルが壊れかかっている時期とアンダーソンが"Free"を出すタイミングが重なり、再注目されているという状況です。

ではこのFreemiumモデルは、これまでのビジネスモデルと比較するとどんなモデルに近いのでしょうか。
無料と有料という意味では、カミソリの柄の部分を無料で配り、替え刃の販売で後からコストを回収するというカミソリ型のビジネスモデルと比較して論じられることが多いようです。
実際、"Free"の予告編とも言えるWiredの特集でアンダーソンは、ジレット社の事例を皮切りに無料経済の話を始めています。
このモデルのキモは、一度カミソリの柄を買うとそれに合う同社の替え刃を買わなくてはいけない、というところにあります。
つまり、最初にハードが決定されてしまうことにより顧客を囲い込むことが出来、その後も継続的に収益が生み出されることになるのです。
他にも、コピー機やゲーム機、運用・メンテナンスで儲けるタイプのシステム開発やエレベーターなどがこのモデルに当てはまると言えるでしょう。

しかしFreemiumモデルは必ずしもハードにロックインされて後の収益が生まれるというわけではありません。
個人的にFreemiumは、『ザ・プロフィット』によるところの「製品ピラミッドモデル」の特殊なパターンとして理解した方が分かりやすい気がします。

製品ピラミッドモデルとは、ある製品カテゴリにおいて、一つの企業が顧客ごとに製品を分け、ピラミッドのように段階的なレベルを設定するモデルを言います。
ピラミッドの図を想像しても分かるように、最下層にあたる最も価格の低い製品が大量に販売され、頂上にあたる最も価格の高い製品は少量販売されます。
この時、最も利益を生み出すのは頂上にあたる高付加価値製品になります。

では、何故ピラミッドの底辺部分の製品が必要になるのでしょうか。
これを理解するため、まずは『ザ・プロフィット』より、製品ピラミッドモデルをバービー人形の例で解説した部分を抜き出します。
バービー人形は、20ドルとか30ドルとかで売られている。他社はこの低価格市場には簡単に参入できる。そこで必要なのが防火壁(ファイアウォール)だ。他社の追随を防ぐために、10ドルのバービー人形を売り出して廉価市場への他社の参入を封じ込める。ここではほとんど利益は上がらないが、他社が自社の顧客との関係を結ぶ道を塞ぐことはできる。それに、最初は10ドルの人形しか買わなかった顧客も、やがてはアクセサリーや他の人形が欲しくなるものだ。その部分ではそれなりの利益が上がる。 しかし、(バービーを販売している)マテルはさらに本当の意味での成功を収めるために、廉価市場とは対極的な方向にも目を向けた。そして、登場したのが100ドル、200ドルの市場だ。
重要なポイントはずばり「防火壁」。
他社が追随出来ないような廉価でエントリー製品を提供することにより、他社への参入障壁を高くすることが出来ます。
さらに付け加えると、廉価製品は顧客を集める役割も担っています。
廉価製品で集客し、かつ他社参入を防ぎつつ、高付加価値製品で利益を生み出すというのがこのモデルの特徴と言えるでしょう。
(この考え方は、フロントエンド商品/バックエンド商品という言い方もされるようです)
このモデルを利用しているのは、人形以外にも、自動車、腕時計、クレジットカード、最近ではiPodなんかが思い当たりますね。

Freemiumモデルの場合、上記の「他社の追随出来ないような廉価」が無料になっているというわけです。
ただの廉価よりも無料の方が顧客に対するインパクトは強いはずですから、通常の製品ピラミッドモデル以上に他社にとっての参入障壁が高くなります。
また、そのインパクトから、無料化は集客としても非常に強い手段です。
Googleが、他社が有料で提供しているようなサービスを無料で提供して話題を集めたのは記憶に新しいですよね。

このFreemiumモデルは、今や様々なwebサービスに採用されています。
その価格やFreemium Rate(提供された有料サービスに対する無料サービスの比率)が正しいかどうかは別として、Yahoo!、mixi、はてな等、国内の主要なwebサービスの多くがFreemiumモデルを採用していると言えます。
一時期「無料モデルは終わった」ということを言う人たちが居ましたが、僕はそうは思いません。
「とりあえず無料にしてみる」というブームは去りつつありますが、それは無料化が戦略として見直されているからこそです。

マスメディアのビジネスモデルが崩壊しかけている今、新聞社ではwebへの記事の無料提供をやめて有料化しようという声が上がっています。
しかし以前こちらのエントリでも書いたように、web上にはブロガーのように無料で文字を書く人が大勢居ます。
web上のコンテンツとしてこれと争うためには、有料と無料の丁度良いバランスを見極めなければなりません。
今後新聞社などの既存のメディア企業がいかにこのFreemiumモデルを使っていくかがポイントとなりそうです。




                   ≫Freemiumモデルについての詳細を読む

2009年8月29日土曜日

Charlene Li率いるAltimeter Groupへ、ソーシャルメディアマーケティングのベテランがパートナーとして次々に参加

米国時間の8月27日に、「グランズウェル」著者のCharlene Liが創設したAltimeter Groupは、同組織にソーシャルメディアのベテラン、Jeremiah Owyang、Deb SchultzとRay Wangらが参加することを発表した。ソーシャルメディアやそれに付随するテクノロジーの業界の中でも、この三名は卓越した専門性を持つ著名な専門家であり、様々な場所で活躍している。日々進化を続けるソーシャルテクノロジーとの関わり方や活用に頭を悩ませる企業にとって、彼らのような存在は非常に心強いパートナーとなるだろう。







Jeremiah OwyangはこれまでForrester ResearchのSenior Analyst, Social Computingとして活躍してきた。彼自身のブログWeb-StrategistはAdAgeなどの有力ブログランキングでも上位にランクされるほど著名なブログである。Forrester時代には数々のレポートの執筆、様々な企業へのコンサルティングなど手がけてきた。


Deborah Schultzは現在P&Gのソーシャルメディアラボのコンサルタントとしても活躍する


Ray WangはERPやCRMといったビジネスアプリケーションの専門であり、エンタープライズアプリケーション導入と活用を支援してきた。


今回の組織編成により、Altimeter Groupはそれぞれのパートナーの強みを活かし、Leadership, Customer, EnterpriseとInnovationを包括するホリスティックアプローチを提唱している。





Charlene Liは進化するテクノロジーに対応するために、組織に必要とされる文化や組織構造を最適な方向へ導くことに注力する。Deb Schultzは革新的なコンセプトの立案者として、“The Hangar”というラボで研究を進める。Jeremiah Owyangは進化するテクノロジーへの顧客戦略に注力する。Ray Wangは組織内部の活動にフォーカスする。彼自身のエンタープライズアプリケーションに関する深い理解と洞察を活かし、企業に対してトラディショナルなシステムから、新たな“social CRMデータを蓄積できるエンタープライズシステムへの転換を支援する。また、Rayは組織に対して新しいソーシャルエンタープライズアプリケーションとクラウドコンピューティング技術のパワーを社員やパートナーへ理解させることもサポートする。



現在の経済環境はもちろんのこと、変化の激しい業界では、「卓越性 x アライアンス」が生き残り、躍進の重要な鍵となる。進化を続けるソーシャルテクノロジーと、そこに参加するユーザーを掴みきれないまま、風船が空に飛んで行ってしまうように取り残されてしまっている企業もある。今まさに起こっているパラダイムシフトに対応するために、組織はAltimeter Groupのような専門家集団を待ち望んでいたと思う。まさに集まるべくして編成された組織。今後の活躍に期待したい。



2009年8月21日金曜日

グランズウェル著者が語るソーシャルメディアマーケティングで重要な3つのこと/SES San Jose 2009でのCharlene Liによる基調講演

去る8月10日から14日にSES SanJose2009が開催された。残念ながら私は参加することができなかったが、「グランズウェル」で有名なCharlene Liが基調講演を行い、このライブレポートやスライド、動画がオンライン上に上がっていたので紹介したい。



少し前に社内で海外のソーシャルメディアマーケティング事例に関して説明する必要があったので、彼女の記事や講演の音声/動画を追いかけていたが、基本的に今の彼女のメッセージは以下の三つから成っている:

1) Social Networkは空気のような存在になる
2) テクノロジーではなく関係性にフォーカスすること
3) 消費者/顧客の声を「傾聴」し「対話」+「支援」+「活性化」すること

1) はソーシャルグラフのポータビリティ性が与える影響に関して述べている。Razorfish社のShiv Singhが例示したAmazonやITunes Storeでの活用例を使用してその可能性を示している。




2) では、文字通り無数にあるソーシャルテクノロジーばかりに気をとられるのではなく、顧客と最適な関係性を構築することを中心に考える必要があるというメッセージだ。
3) は、彼女の著書「グランズウェル」で紹介されていた、戦略に関する流れである。この戦略に従い、目的に合わせて適切なテクノロジーを活用することにより、顧客との関係性をより深める事ができ、また活性化させることが可能となる。




SES SanJose 2009ではCharlene Liが基調講演に登壇することを早い段階からリリースしていたので、検索に関連して興味深い洞察を聞くことができるかと期待していた。しかし、講演のスライドやライブレポートを読む限り、BingやFacebook とTwitterのリアルタイム検索といった最近の検索業界におけるトピックスを加えるのみにとどまり、基本的にこれまでの彼女の持論から外れる事は無かった。結局、何事にも言えることだが、ソーシャルメディアマーケティングにおける基本は普遍的であり、無駄に化粧を施す必要は無い。新たなテクノロジーが登場したとしても、企業側が顧客とどのような関係性を構築したいかを中心に思索することによって、その都度最適な取捨選択ができるということだろう。

日本国内でも多くの場所でソーシャルテクノロジーを活用したマーケティング手法に関して議論がなされている。しかし、欧米では多くの企業が様々な用途で活用し始めているTwitterやFacebookに関しても、日本ではまだ試行錯誤の段階である。Twitterに関しては徐々に一般ユーザーへ広がっていくことが予想できるが、Facebookはクラウドソーシングによって日本語化はされているものの、海外在住経験者といった特定の人々にしか利用されていない。実際にFacebook Adsの属性ターゲティング設定画面で確認すると、2009年8月の段階で日本在住者は約60万人である。そのうち、アクティブなユーザーのみ、また、日本語を話す人のみに限定すれば、半分以下になる。Facebookはこのあたりの問題に気づきはじめたのか、これまで英語版で「Poke」となっていたものを「ポークする」とそのまま訳していたが、最近は「あいさつをする」というように徐々にローカライズの精度を向上させている。だが、mixiやGREEに慣れている一般的な日本人ユーザーを、いわゆるセカンドSNSとして利用させるには、まだインセンティブが弱く、第一インターフェースで右往左往させてしまうだろう。この問題を今後どのように解決していき、ユーザー数を獲得し、欧米のようなマーケティングツールとして活用されていくのか(否か)楽しみである。私個人的には、友達がアップロードした写真に対して「いいね」というボタンをクリックして、反応できるところや、あたりまえだが通常のSNSと同様にメッセージが送受信でき、いわばライトからハードまで多様なコミュニケーションをとることができるのは魅力的だと考えている。


最後に、SES SanJose2009での講演とインタビューがまとめられた動画を以下に紹介する (静止状態だと変な顔になってしまっている。申し訳ない。これを治してあげることはできないのかな?):