2010年1月30日土曜日

iPhoneやiPadがどうしてもシングルタスクな理由

今週、Appleのタブレット端末iPadが発表されましたね。
色々な人が色々な事を言っていますが、iPadに対してもマルチタスク非対応を嘆く声が非常に多いことをtwitterやblogの反応で知りましたので、今日はなぜiPhoneやiPadがシングルタスク志向なのか、という話をしようと思います。

iPadといえば、発表直前のGizmodoの予想記事に、かつてAppleの開発者でありMacintoshプロジェクトを立ち上げたジェフ・ラスキンのモーフィング・コンピュータについての紹介が載っていました。
「AppleタブレットのUIはズバリこうなる!(動画&予想図)」すごくいい記事で、とても楽しく読ませていただきました。

iPhone/iPadのシングルタスクへの執着には、「マルチタスク汎用機」ではなくて、「必要な時にいろんな専用機に変身できる多機能機」という基本的な設計思想があると思います。ここを理解しておくと、なぜわざわざマルチタスクを制限するようなことをしているのか、分かりやすくなると思います。

昔からコンピュータ業界では専用化か汎用化かという議論がありました。ジェフ・ラスキンが活躍していた当時はコンピュータの使い勝手がこれでもかというぐらい悪く、またコンピュータを小さくできる技術が見えていた頃だったので、デザインの方向性が用途への最適化かそれとも汎用化か、というところで分かれていたのはすごく納得できます。デザイナー側から見ると、汎用機としての性能を重視することは闇雲に計算性能を向上させることに見えますし、テクノロジストから見ると、技術が未熟な状態では製品のコンセプトがよくても真価を発揮できずに「早すぎた」と言われてしまうことはとても歯がゆいでしょう。

実際の時代の流れをマクロに見たときには、汎用化思想と専用化思想は車の両輪のようなものです。コンピュータは汎用的な性能を上げつつ、ところどころで専用的に道具に組み込めるものは組み込んで用途を最適化していく、という進化の仕方をしています。音楽プレイヤーやカメラ、自動車なんかはサイズ的にも無理なくコンピュータが組み込まれた例と言えます。

今は昔よりいっそうコンピュータを小さくできるようになりましたが、シリコンバレーの回路設計の技術者に話を聞いてみると、たとえば回路基板やCPU設計の効率化はある程度の限界も見え始めているらしいです。ムーアの法則も無理だ無理だと言われ続けながら今まで何度も乗り越えてきましたが、本当に今度こそ、今のアーキテクチャでは物理的な小型化の限界が見え始めてきた。つまり汎用機としての計算性能向上の道は、終点がちょっとずつ近づいているという風にも言うことができます。

そんな時、画面の中ではとんでもなく自由にインターフェイスデザインができて、多すぎもせず少なすぎもせず、必要な時には出すけど普段不要なものは隠せる、タッチパネルという方式がでてきました。でてきたというか、iPhoneがタッチパネルの正しい使い方を教えてくれました。

多機能でありながら、それぞれの用途に対しては専用機のような振る舞いを見せる。Appleが出したこの回答によって、長きにわたって続いた「専用機でユーザビリティを高める」VS「汎用機でケーパビリティを高める」の論争には終止符が打たれるかもしれません。少なくとも、一般ユーザに対しては。

タッチパネルは物理的フィードバック(クリック感など)が無いことが操作上の難点でしたが、クリック音やバイブレーションのような疑似フィードバックではなく、画面自体を浮き上がらせて触覚フィードバックを持たせる技術が徐々に出てきています。(これは視覚障害者用の物理ディスプレイデバイスの開発によって研究が進んだ技術と言われています。)触覚フィードバック付きタッチパネルについては
アップルも特許を出願しています。

また、とんでもなく自由なインターフェイスデザインを二次元だけでなく三次元で実現しようという研究もあります。

Nokiaはナノスケールで自在に変形するMorphという携帯電話コンセプトを発表しています。


Intelでは、Programmable Matterという小さな粒をプログラミング可能にして立体物を自在に変形させる技術が大まじめに研究されています。


少しずつではありますが、コンピュータを組み込んだ製品に、道具として物質性とか身体性を考慮したデザインが入る余地が増えてきています。単なる専用化でも単なる汎用化でもなく、「汎用品なんだけど、その都度形を変えて用途に最適化する」という、両立の形が見えてきたような感じですね。それがモーフィングコンピュータという概念です。
iPhoneやiPadのことを二次元モーフィングコンピュータだと考えてみると、iPhoneやiPadがなかなかマルチタスク機構を採用しない理由が少し分かっていただけるのではないでしょうか。


昨年はセカイカメラも大いに話題となりました。3D映像やAR技術のように、実際にはそこにないものをあるように見せる、疑似的な物質感を出す技術も発達してきていますね。道具のデザインの未来では、「アナログ」と「デジタル」はいつか区別のないものになり、「物質」か「非物質」かという区別をするようになるはずです。

ARについても、シリコンバレーにいると色々と見えるものがあります。この技術のトレンドについても、また近々レポートしたいと思います。

2010年1月25日月曜日

webマガジン『84ism』の立ち上げと、メディアの趣味化について。

既にひととおりtwitterで話題になったようなので乗り遅れた感満載ですが、一応告知。
1月23日、@shoshirasakaという友人を中心にして、1984年生まれの人たちによるwebマガジン『84ism(ハチヨンイズム)』を立ち上げました。
84ism(ハチヨンイズム) 育ち続ける等身大ウェブマガジン
http://84ism.jp/

ちなみに@shoshirasakaは、ブログパーツ「ざわざわ化ボタン」やピューと吹くジャガーのジャガーさんbotを作ったヘンテコで面白いデザイナーさん。
僕は行けなかったのですが、23日土曜日には84年生まれを集めて創刊パーティーもやったみたいです。

僕は「ウゴクコウコク(動く広告)」というコラムのライターとして参加中。
街やwebで見かけた「人を動かす」面白い広告や、今の時代に「動いてゆく」広告の変化を書いていく予定です。
位置づけとしては、こちらのブログが広告やweb、メディアに元々興味がある人に向けて書いているのに対し、あちらはいろんな人に見て頂けるような分かりやすいものを書きたいなと。
もしかしたら内容が被ることもあるかと思いますが、そのあたりはご簡便。
ちなみに第1回目のテーマは、1984年生まれの人のメディアということで、AppleのCM「1984」を取り上げました。
是非こちらの記事、読んでみて下さいな。

さて、創刊についてはtwitterでは既にある程度話題になった感があるので、今回は僕がこのwebマガジンが面白いと思った2つの理由についてちょっと書いてみたいと思います。


1.同年代という切り口
普通メディアというと、趣味や嗜好が似た人たちをターゲットとして●●についてのメディア、という考えになるかと思います。
こうなりがちな一つの理由は、メディアは広告を取らなければやっていけないという前提があるからではないでしょうか。
後述しますが、広告を取ること、つまりお金儲けを目的にしない場合はこのルールを破ることが出来ます。

対して今回の世代カットのメディアは、ジャンルを固定する必要が無くなります。
つまり、デザイナーも広告屋さんもメーカーに勤める人もフリーターも経営者も主婦も鳶職も、「1984年生まれ」というタグを持っている人であれば全部一緒くたに語ることが出来るわけです。
だから編集長の@shoshirasakaとか副編集長の@eshintaroとかと最初に話していたのは、「これって学校だよね」という話でした。

今でこそ僕らは広告とかwebとか、自分と近い興味の人達で固まりがちですが、公立の小中高校って、かなりいろんな人種(という表現が正しいか分かりませんが)が混じり合っていたと思うのです。
だからこそ他人と比較して色々なコンプレックスを感じたりそれを直そうとしたりしますし、苦手なタイプも含めて全然違う人からいろんな影響を受けていたはずです。
いま大人になって振り返ると、そういう場所って結構必要なんじゃないか。
無いものねだりかもしれませんが、そんな風に思ったのです。
だからここを学校としてもう一度いろんなタイプの人が集まって、その中の出会いから人生の方向性が180°変わる人とかが出てきたら面白いなーと思います。

また「生まれた年が同じ」という切り口でのメディアであれば、サブタイトルにあるようにメディア自体が「育つ」ことが出来ます。
つまり、25歳の時は25歳の時に考えることを共有でき、30歳では30歳、60歳では60歳と、僕らが育つと同時にメディアの存在意義も変わる。
これも今までは有り得なかった、非常に面白い特性であると思っています。

2.趣味としてのメディア
最初に僕がこの話を聞いてmtgに顔を出した時に、最初に聞いたのが「儲けるのって目的?」でした。
答えはNOでした。その瞬間、「参加したい!」と思いました。

これまでメディアを運営している人達の多くはお金儲けが目的でした。
もう少し詳しく言うと、これまでは制作や運営にコストがかかるからお金が儲からない限りは立ち上げることが難しかったわけです。
これが今、状況がかなり変わってきています。

僕たちがこのメディアについての話をする時、目標としていた一つのメディアがありました。
それが、東京ナイロンガールズでした。
このメディアもやはり、運営メンバーの方々はこれ以外の仕事を別に抱えています。
今でこそ広告も入っているものの、このメディアは「収益化出来なくても別にいい」ものだと思うのです。
このスタンスは自分たちのやりたいことを追求できるという意味で、本当に魅力的だし、もっとそういうメディアが増えたらいいと思った。
それで僕たちも84ismというメディアを作ったのでした。

趣味としてのメディアという話であれば「それってブログと同じじゃん」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし一つ、圧倒的に違うことがあります。
それが「編集権」です。

これまでのブログでは「執筆」という行為を一般のユーザーに降ろすことには成功しました。
でも「編集」はまだどうしても、マスメディアの特権という印象があります。
僕が考えるに、この「編集権」も今後一般ユーザーが普通に持てるものとなると思うのです。
(編集については色々思うことがあるので、この考察はいつかまた書きたいです)


今後こういったメディアの運営は益々ふつうの人たちが趣味として、或いは兼業として行うことがきっと増えて行くでしょう。
音楽を奏でたり絵を描いたり写真を撮ったりすることが趣味として行われるのと同様、執筆や編集というクリエイティブな行為ももっと一般的になってよいと、僕は思います。
そもそも僕たちの世代あたりから、大学生がフリーペーパーを作るというのが流行りだしており、「自分たちでメディアを作り、持つ」ということは当たり前になり始めています。
いわゆる「普通」の人達がメディアを持ち、それが既存メディアと競合すれば、既存メディアはもっと良いものを作らなければいけなくなるはずです。
これは非常に健全で、面白いことではないでしょうか。

というわけで84世代の皆さんは、是非参加してみて下さい。
またそれ以外の方々も、趣味のメディア、立ち上げてみてはいかがでしょうか。

2010年1月23日土曜日

2010年ソーシャルメディアマーケティングで勝ち抜くために重要な4つのこと

2010年のソーシャルメディアマーケティングに関する予測ついては、多くのメディアやBlogで情報が発信されていますが、企業が本当に成功するためには、4つの主要なポイントに注力する必要があると、元Forrester Research、ソーシャルコンピューティング担当で現在グランウェル著者のCharlene Li(シャーリーン・リー)率いるAltimeter GroupJeremiah Owyang(ジェレマイヤ・オウヤン)は指摘しています。以下にそれを紹介したいと思います:



1) テクノロジーやツールにばかり気を取られてはいけない (Don’t fondle the hammer)

関係を構築したい顧客を理解し、達成すべき本質的な目的に注力することが重要であって、変化の激しいテクノロジーやツールを基軸とした戦略を立ててはいけない。

企業は必ず最初に顧客理解から始めて、本質的な達成すべき目的の明確化、ゴールを設定する必要がある。

最終的に理想的な家(ゴール)を建てることが目的であって、どんなハンマー(ツール)を使うかは大事ではない。




→テクノロジーは常に変わりますが、それを利用する「人」は変わりません。最近では「Twitterマーケティング」とか、トレンドに乗ってお金を稼ごうとする人たちによる、テクノロジー主導の危ういソーシャルメディアマーケティングが説かれていますが、その解釈を誤ると、長期的に有効な施策にはなりえなくなります。

MITメディアラボの石井裕教授はいつも説いていますが、テクノロジーの寿命は1年、アプリケーションは10年と短いけれど、その根底にあるヴィジョンは100年です。これはソーシャルメディアを活用したマーケティングにも、もちろん製品開発、ビジネスモデルの構築など、すべてのことに言えると考えます。



【追記 2010/1/24 16:20】
かつて、アカウントプランニングの思考を日本に取り入れた、青山学院大学教授の小林保彦教授と資生堂の福原名誉会長との対談の中で、このポイントをよく理解させてくれる言葉を思い出しましたので、以下に引用します:

「大事なことは、会社は一体何を考えているのか、次に何をしたいのかということをきちっと会社の中で決めておくことです。そうすれば、あとはどんなプロセスを使おうと、どんなツールを使おうと、あるいは広告の費用対効果といった分析をやろうと、それはもうごく細部の問題になりますね。しかし、いまの現状は費用対効果の分析の方から始まって物事が考えられている。逆のことをやっているんです。」(日経広告手帖、2004年2月号「広告とは経営だ! IMCを考える)より)

2) 80%ルールを実行する (Live the 80% rule.)

ソーシャルメディアマーケテイングで得られる成功の80%はそれを実行するための準備によるものであり、残りの20%はどのツールやテクノロジーを使うかである。

成功の80%を獲得するためには、全社的に正しい組織体制の整備、適切なプロセスの構築、そして役割の振り分けと人材配置など、企業側の運用体制を整えておく必要がある。



→例えば、企業がTwitterアカウントを運営している場合、メッセージをくれたユーザーへの返信内容について、いちいち上司の承認をとっていては、成功しない。Co-Tweetなどのクライアント等を活用しつつ、リアルタイムに対応できるようにある程度の権限委譲は必要だと考えます。昔IBMがIMC(統合マーケティングコミュニケーション)を率先して取り入れたとき、IMCリードを配置して、組織の整備と統合、社内への啓蒙活動を行ってきたように、実際に日本のマイクロソフト社でもクマムラゴウスケさんのようなソーシャルメディアリードが現れてきています。今のところこういった取り組みは外資系企業が中心かもしれませんが、今年からはサイズに限らず、日本企業でもソーシャルメディアを理解した社員に社内向けソーシャルメディアポリシーの策定を進めさせ、そのままソーシャルメディアリード的役割を任せるという流れがでてくるのではないでしょうか。


3) 顧客はどの部門の人と接しているのかなど気にしない (Customers don’t care what department you’re in. )

顧客は自信の問題が解決したいのであって、それに対応する人の部署がどこかなど気にかけません。しかし、ほぼすべての部署の人がソーシャルメディアツールを使って、顧客と直接コミュニケーションをとることができます。そのため、企業としてホリスティック(全体的)な一貫性のある経験を提供する必要があります。顧客に対してどのようなブランド体験を与えているのか、ブランドモニタリングやコミュニティツール、CRMシステム等のそれぞれのデータの調査をする必要があります。


→同じく、昔IBMでは事業部ごと、地域ごとに70を超える広告会社と契約し、好き勝手にロゴを変更してブランドイメージの分散が進み、結果としてブランド価値低下の危機的状況に陥ったことがありました。同一組織が外部へ発信するメッセージには一貫性を持たせる必要があるというのは誰しも理解できるものの、当時はそれができていませんでした。

現在、そこまで大変な状況に陥ることが無かったとしても、部署によってはその部署内の文化が異なるために、顧客への対応方法も変わってしまう可能性は否めません。どうしても、組織内の分業化により、それぞれの部門の目的に差異があるために、セールスの担当者とカスタマーサーポートの担当者ではそれぞれの異質の人間が構成されていきます。ソーシャルメディアで直接コミュニケーションを取る、あるいは情報を発信する人のみならず、全員が自社の根本的な企業理念、ミッション、社会における役割を明確に理解しておく必要があります。

参考:実践コーポレートブランド B2CブランディングとB2Bブランディングの違い

4) リアルタイムウェブは進んでも、企業は"リアルタイム"にはなれない (Real time is *not* fast enough. )

企業はソーシャルメディアの拡大と比例して対応することはできません。多くの企業は顧客と会話したり、顧客の声を聞くためにモニタリングを担当する人材を十分に雇うことができません。その結果、ブランド支持者を「無償の兵隊」として頼り、モニタリングツールなどを活用した傾聴によって顧客のニーズを期待するようになります。


→米国版のGoogle、Bing、Yahooでは、通常の検索結果にTwitterの「つぶやき」を含めるテストを行っています。これまでは、基本的にTwitterのコミュニティ内に限られていた情報が、今後検索エンジン側が検索結果に Twitter のデータを取り込んでいくことにより、特定のブランド名を検索したユーザーに対しても表示されてしまうことになります。仮にTwitterというサービスを知らなくても、ここで発信された不特定多数の人からの情報を検索エンジン経由でリアルタイムに知ることになります。

前置きが長くなりましたが、彼は企業にとっては良くも悪くもリアルタイムに情報を発信できるようになった今、その対応策を講じることは急務だといいます。とはいえ、様々な事情によりそんなに迅速に動けるわけはないので、今いる人たちでなんとかするしかなく、結果的に自社のファンたちの活動に任せることになると示します。つまり、グランズウェルで語られているフレームワークの「傾聴」に留まるということです。

米Citibankの調査等でも明らかになりましたが、現実的には、米国であってもまだ多くの企業がソーシャルメディアに投資できる状況ではなく、先進的な大企業を除いて、なんとかみんなでがんばってやっている、というところが多いようです。

現在、予算が絞られて思うような施策の実行ができないにしても、ブランドモニタリングできるフリーツールはWeb上にたくさんありますので、まずそれを使いながら、顧客がどんなテクノロジーを使う傾向が多いのか、また、どういったニュースや商品、企業側の対応に反応するのかなどを観察して、少しづつ歩み寄る努力をすることから始める必要があります。



全体を通して、もちろん、"ざっくりとしている"、ということを認識していますが、海外でもソーシャルメディアという新しいビジネスチャンスに群がる企業や個人が急増して、あらゆる情報が氾濫し、部分的に混乱が起きている状況をもう一度見つめ直すために、この領域でパイオニア的存在を確立しているAltimeter Groupが本当に重要なことを今一度考えてもらえるように、改めてこの情報を発信したのだと思料します。私自身も今年は日本におけるソーシャルメディアとの付き合い方について、倫理的/本質的なアプローチを模索し、情報を発信していきます。


2010年1月17日日曜日

Suicaコインロッカーで見えた、アトムのメリット

昨年暮れの31日、コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法というタイトルで、前後編にわたるエントリをアップしました。
内容はアトム財(実際の物)とビット財(デジタルコンテンツ、サービス)を組み合わせることで、ユーザーニーズを最大化することが今後肝要になってくるだろうというもの。
アップしたのが大晦日だったのが悪かったのか、最初は読んで下さる方やブクマ数も少なかったのですが、年明けには@yukawasaさんがご紹介して下さったのを皮切りに、色々な方に読んで頂けたようで大変嬉しかったです。有難うございました。

上記エントリの後編では主にアトム財の短所と、ビット財の長所がそれをいかに補うかという話を書きました。
今回もアトムとビットの話なのですが、今回はこれまでアトムであったものがビットに取って変わられた事例を題材に、アトムの良さやメリットを考えてみたいと思います。
その題材が、タイトルにもある「Suicaコインロッカー」です。


JR山手線を使う人には結構馴染み深いかと思いますが、「Suicaコインロッカー」はその名の通り、Suicaを使って借りることが出来るコインロッカー。
もちろん支払いもSuicaで可能ですが、ポイントはSuicaが鍵になること。
鍵というアトムだった部分をSuicaというビットに置き換えたんですね。

SuicaのようなFelicaカードが鍵になること自体は今やさほど珍しいことではありません。
社会人の方々には社員証が鍵を兼ねているという方は大勢いらっしゃるでしょうし、
学生でも最近は学生証にFelica機能が付いていることも珍しくなくなりました。
ですから、コインロッカーでも鍵がSuicaになるというのは一見便利な気がします。
また、製造元であるアルファロッカーシステム社の製品案内を見ても、ビットだからこそ可能になった機能が盛り込まれています。

それでも僕が実際にこのコインロッカーを使おうとした時、2つの点で不便さを感じたのでした。

空いているロッカーが分かりにくい
普通のコインロッカーであれば、開いているロッカーには鍵が刺さっています。
当然です。だってロッカーを使っている人は鍵を持ち歩いているんですから。
これが、Suicaロッカーだと、こうなります。



どこのロッカーが空いているか分かりますか?
一応一つ一つのロッカーにはランプが付いており、その点灯によって空き状況が分かるようになっているのですが、ランプが小さいこともあり、遠くから見た時にはほとんど分かりません。
これなら鍵が付いている方が分かりやすいですね。

荷物を預けたことを忘れやすい
これは、僕が最初にこのSuicaコインロッカーに荷物を預けた時に実際にあったのですが
目的地に向かう途中に荷物を預け、その後帰りにロッカーで荷物を取り忘れてしまったのです。
これは単純に自分が忘れやすいことが原因と言われてしまえばそれまでなのですが(苦笑)、
普段ロッカーに荷物を預けた時には僕は必ず左ポケットに鍵を入れるんですね。
で、その鍵がポケットに入っているという感覚に頼っていたわけです。

結局荷物は次の日に取りに行って事なきを得たのですが、
このような事が頻繁に起こるようではコインロッカーとしてはあまり良い結果とは言えません。


さて、Suicaコインロッカーに関するこれらの経験は、扉を開けるためだけでなく、
空き状況のサインとリマインダという、我々が今まで意識していなかったアトムとしての鍵の役割
を顕にしたと言えます。
今後、これまでアトムであったものがビットに置き換わる事例は増えて行くことが予想されますが、
その際にはこういった「その状況においてアトムが果たしている二次的な役割」についても考えなければならないでしょう。
この役割を考えた上で、それでもビットに置き換えるメリットがあるのかどうか。
或いはそのメリットがあるのであれば、二次的な役割も同時にビットに置き換えることが出来ないか。
これらを考えることが重要です。

ちなみに、最初にSuicaコインロッカーを僕が使ったのはもう2年以上前のことなのですが
僕は、その後Suicaコインロッカーをほとんど使っていません。
結局普通のコインロッカーの方が使いやすいんですよね。

ビットというのはあくまでも手段であり、これを使うことが目的ではありません。
技術先行ではなく、ビットを使う意義をよく考えた上で活用して行く必要がありそうです。

2009年12月31日木曜日

コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法(後編)

注:このエントリは一つ前のエントリの続きとなっています。
上記エントリを先にご欄頂くことをお薦め致します。

前編ではコロプラやラブプラス、そしてWebkinz等を例として
アトム財とビット財を組み合わせるという、
これからの時代のマーケティング手法の誕生を論じました。
ここでは、アトム財とビット財それぞれの特徴を考えつつ、
その活用方法について考えてみたいと思います。

特徴1.アトム財は複製コストがかかる、ビット財はかからない
アトム財は実際の物ですから、1個1個の製作に対してコストがかかります。
ビット財は『FREE』でも述べられているように、複製コストがかかりません。
よって、ビット財は売れれば売れるほど1個に対するコストは小さくなってゆきます。

特徴2.アトム財にはお金を払いやすい、ビット財にはお金を払いにくい
webサービスでは、ユーザー数が増えても収益化に苦労することがあります。
コロプラの例を見ると、アトム財を売るために自社のサービスを
ビット財として提供することが収益化の一助となっていることが分かります。
一部アバターアイテムの成功例などはあるものの、多くの人々は
まだビット財にはお金を払う文化は根付いていません。

特徴3.アトム財は差別化がしづらい
よく言われることですが、今の時代は高度成長期と違って
ほとんどの人が生きるために必要なものを揃えてしまっています。
このような時代では物を売るのは難しく、また多くの場合市場に競合他社が
存在しているため、各社は新機能をつけて差別化を図ろうとしています。
ビット財は企業にとって、新たな差別化を図る一つの方法となりそうです。

特徴4.ビット財のターゲットは得てして若い
ビット財、例えばコロプラやラブプラスのようなゲームに惹かれる人の多くは
30代以下の比較的若い層が多いと思われます。
対して日本の伝統企業(例えば有田焼のような工芸品)では
その顧客の年齢層は高まるばかりで、このままだと減少の一途を辿ります。
コロプラの事例でもあったように、ビット財をトリガーにアトム財を売ることで
企業は全く年齢層の違う、新たな顧客をターゲットとすることが出来ます。

特徴5.ビット財は継続利用を可能にする
これまでの通常の商品は、その商品を購入し、消費したら終わりでした。
ぬいぐるみもガムもカメラも、それを購入した後は、
ほとんどの場合、企業と顧客の関係性はまたゼロに戻ってしまいました。
しかしビット財を用いれば、企業は商品の購入後も顧客との関係性を継続し、
エンゲージメントを高めることができます。

特徴6.ビット財はストーリーを提供して世界観を広げることが出来る
ラブプラスやコアラのマーチの例から、我々はもう一つ学ぶことが出来ます。
例えばラブプラスはクリスマスケーキを「画面の中の彼女と楽しむ」という
ストーリーの中で消費させるという、新たな需要を生み出しました。
コアラのマーチでは、元々あった「まゆげコアラ見つけると幸せになる」等の
ジンクスを更に拡張し、色々なコアラを見つける楽しみを提供しました。
これらのように、ビット財はコンテンツによってストーリーや奥行き感を出し
ただの物でしかなかったアトム財を顧客にとってより意味のあるものにします。

特徴7.ビット財は広告としても機能する
これらの事例が話題になった大きな要因は、それがwebなどを介して
素早く広がっていったからであると考えられます。
特に最初の3つの事例では、始めからデジタルコンテンツの世界観が
出来上がっており、ユーザーのロイヤルティが非常に高かったため
ユーザー同士が情報を交換し、結果として売上に繋がりました。
ビット財を提供することは、広告としても効果が高いと言えるでしょう。

以上のように、アトム財とビット財には、それぞれ長所と短所があります。
これらの特徴は、どのような場合に、アトム財とビット財を組み合わせるか、
また自社のアトム財に適したビット財はどんなものなのかを考える時のヒントとなるでしょう。

では、実際にアトム財とビット財を連携させたマーケティングを企画する時、
我々はどのようにこれらを連携させれば良いのでしょうか。
前編にあった事例から考えると、現状での答えは明らかです。

前編で出て来た例のほとんどが、アトム財の購入時に紙で出来たカードやタグを付与していることが分かるでしょう。
今のところ、ビット財として提供されるのは既存のwebサービスへのログインか、
或いはARによるキャラクターの表示が多いと思われます。
前者の場合はカードに、サービス内で入力するシリアル番号が、
後者の場合はカードに、ARを出現させるためのARマーカーが印刷されています。
このカードがアトムの世界とビットの世界を繋ぐ、橋の役割を担っているんですね。

アトム財とビット財が保管しあうことでユーザーニーズを高めるという
新しいマーケティング手法は、2010年以降、更に広がってゆくものと思われます。
実際に商品を提供している企業の皆様は、ビット財の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

コロプラとラブプラスに共通する、新しい時代のマーケティング手法(前編)

以前僕はこのブログで、「コピーと共有が当たり前の時代にコンテンツでお金を取るヒント」というエントリを書きました。
これは、本やDVDなど、コンテンツのパッケージメディアを購入した際に
同じ内容のデジタルコンテンツを提供すれば良い、という提案でした。
ざっくり言えば物(アトム)を買った時のおまけとして、
無料のデジタルコンテンツ(ビット)を付ける、ということです。

実際、以前エニグモがローンチした「コルシカ」(現在は著作権関連の問題で停止中)や、
先日「ウェブ新聞を創刊する」旨を発表した北日本新聞社でも
雑誌を購入した人にデジタルデータを提供したり、
新聞を契約した人にウェブ新聞を提供したりと
同様のモデルを用いてコンテンツを提供しようとしています。

今の時代、デジタルデータの扱いやすさに慣れてしまったユーザーは
物としてのパッケージだけではニーズを満たすことは難しいように思います。
今後は物とデジタルを同時に提供することで、物の良さとデジタルの良さ、
その双方をユーザーに対して提供することが出来るのではないでしょうか。

最近、このアトムとビットを組み合わせるという手法は
コンテンツビジネスだけでなく、実際に物を販売する際にも
有効なのではないかと考えるようになりました。
今回はこれらを「アトム財」と「ビット財」と呼び、
幾つかの事例を見ながら新しいマーケティングについて考えてみたいと思います。

事例1:コロニーな生活PLUS
コロニーな生活PLUS」は、通称コロプラと呼ばれる
位置情報を利用したオンラインゲームです。
コロプラではアイテムを集めたりして遊ぶのですが、
その中には実際にその土地に行き、提携先の商品を買った時のみ
ゲーム内でももらえる、限定のお土産アイテムがあります。
仕組みとしては商品を買った際にコロカ(写真)と呼ばれるカードが貰え、
その裏に書いてあるパスワードをゲームで入力することで
ゲーム内で限定アイテムを購入することが出来るとのこと。



実店舗との連動はカードを使わない位置情報連動の形で今年3月に実験
コロカによる連動を今年の6月に開始、その後提携先の店舗を増やしながら
現在では全国29の店舗で提供をしています。
その中にはコロカによって来客数が跳ね上がった店舗も多く、
事例が日経ビジネスオンラインでも取り上げられました。

また、注目したいのはそのビジネスモデルで、これは広告のように
コロプラが店舗から先にお金を取るのではなく、
コロカの配布枚数から、実際に売れた分を把握し
その金額の15~20%を取っているということが特徴です。
システム開発やお土産のデザイン、コロカの印刷代等を考えると
これはかなり良心的なビジネスと言えるのではないでしょうか。
(コロカの仕組みについてはここギコ!さんが詳しく書いていらっしゃいます)

事例2:Merry +'mas
コロプラと非常に近い例が、今年のクリスマスに実施されました。
それがMerry +'mas(メリープラスマス)キャンペーンです。
これは恋愛ゲーム「ラブプラス」に出て来るキャラクターを
AR(拡張現実)として表示するARマーカーをカードに印刷、
このカードを実際にケーキを購入した人に配るというキャンペーンでした。



このキャンペーンでは、六本木、原宿、高円寺の各店舗で
100個ずつのケーキが用意されていましたが、
朝8時に公式サイトでケーキを販売する店舗を発表したところ
11時の開店前に各店舗で全てのケーキが売り切れるという、非常事態となりました。

事例3:Webkinz
このブログでも何度も紹介している『FREE※1ですが、
この本の第9章「新しいメディアのビジネスモデル」には
Webkinz(ウェブキンズ)というおもちゃが登場します。

これは実物のぬいぐるみを購入すると、タグについたコードを入力することで
オンラインアバターのサービスが楽しめるというものです。
調べてみたところ、これはカナダのガンツ社から2005年頃に発売され、
その後アメリカを中心に大ヒットを飛ばしたとのことでした。
著者であるアンダーソンは、ウェブキンズのビジネスモデルについて
以下のように記しています。
ウェブキンズのビジネスモデルは、「無料」と「有料」をうまく組み合している。(中略) ある意味、これは二〇世紀の経済と二一世紀の経済がうまく強調した好例だ。アトム(ぬいぐるみ)にはお金がかかるが、ビット(オンラインゲーム)はタダだ。現実世界で、ほとんどの子どもはぬいぐるみにそれほど興味を持たないが、ゲームの中で全種類の動物を集めることには夢中になる。そして、バーチャルの動物を追加する唯一の方法は、ぬいぐるみを買うことなのだ。

今までの3つ以外にも事例は存在します。
例えばTopps社の野球カードやガムメーカーWrigley社のThe 5 Mixer
ロッテが2006年に展開したコアラのマーチ@メール占いは、
アトム財を購入した際にビット財を提供するというモデルです。
これらは既存の企業が自社の製品に対して新たなる付加価値をつけるため
商品をトリガーとしたビット財を提供したパターンです。
また、先日株式会社CEREVOが発売したCEREVO CAMを始めとして、
購入することでwebサービスを使えるようになる家電もありますよね。

これらの例は、アトム財とビット財を組み合わせることで
消費者のニーズ(≒売上)を最大化する
という
新しいマーケティング手法であると言えるのではないでしょうか。
ではその手法には、具体的にどのような効果があるのでしょうか。
後編では、具体的な効果と手法について論じたいと思います。※2

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※1 今年の個人的ナンバーワン。ちなみに次点は『アイデアのちから』でした。こちらも超オススメ。
※2 実は最初のエントリではこの部分も含めて一つのエントリだったのですが、友人に「面白いけど長い」という感想を貰ったため、後から分割しました。


2009年12月29日火曜日

バーレーンの実況から考える、類似性の面白さ

ご存じの方も多いかと思いますが、一時期
「バーレーンの実況が日本語にしか聞こえない件」
という動画が流行りました。
「むっちゃ風邪ひいてん」で有名なアレですね。


僕の周りでもみんな爆笑してたのですが、
この面白さは一つパターン化出来る気がするのです。

本来であれば似ているはずの無いものが似ているように聞こえる。
きっとこの意外性が面白いのでしょう。

この面白さは、本家「空耳」も一緒ですね。


また、これは音だけでなく、ビジュアルでも同様。
本来であれば似ているはずの無いものが似ているのが面白い。

(他にも見たい方はこちら

一方で、意図された(と思われる)類似性は
オリジナリティに欠けると見なされ、嫌悪感を抱かれます。
例えばアジア諸国の模倣なんかは、しばしば非難の対象となったりします。

また、「間違い探し」という遊びは
似ているはずの無いものの中に類似を探すのと逆で、
ほとんど同じ絵の中に隠された僅かな違いを探す遊びです。

これらの差異はなんだか不思議な気がしますが、共通点を挙げるとすれば
似ているはずの無いものが似ていることを発見したり、
同じようなものの中から違うものを発見するという
クリエイティビティが感じられるものは面白く
ただ単に真似しただけというクリエイティビティが
感じられないものは面白くないと見なされると言えそうです。

「人がどういうものを面白く感じるか」というのは
webでも広告でも、何かを作るときには非常に重要な要素だと思います。
たまには面白いものを紐解いてその理由を探ってみるのもいいのではないでしょうか。

というわけで、ネタエントリでした。