2009年6月20日土曜日

ぐるなび「赤坂もつ千」に見る、これからのマーケティングのポイント5つ

はてなブックマークで、あるもつ焼居酒屋が話題になっています。
それが、ここ。

もつ焼き処 赤坂もつ千
http://r.gnavi.co.jp/e432800/

読んでもらえば分かるのですが、とにかく宣伝方法が凄い。
「ご予約は丁寧にお断り中!!個室ももちろんご用意しておりません!!」から始まり、とにかく自分のお店を卑下しまくるという内容です。ざっくり言うと。

で、たぶんやっている側は全く意識していないと思うんですが、この手法には、幾つかの重要な要素が隠れている気がします。
今回はそれをちょっとまとめてみましょう。
  1. リスクを負うことで生み出す信用
  2. ネタ性でつくる話題
  3. 自分で確かめるための行動喚起
  4. 期待値調整
  5. 根幹となる商品・サービス

1.リスクを負うことで生み出す信用
そもそもこの広告が成り立つ背景には、今までの広告が自慢しかしてこなかった、という事実があるように思います。
これまで広告と言えば、「うちの商品・サービスはこんなところが凄い」と言うのが普通でした。
でもそういう広告ばっかり見ていると、なんだか何も信用が出来なくなってきます。

このような状況下では、まず自分の言うことを信じてもらうという努力から始めないといけません。
つまり「私の言う事は信じられますよ」という前提を、文脈の中で語る必要が出てきます。
それが今回の場合は「自分の店を卑下する」という方法なのではないでしょうか。
信用というのは、まず自分から何かリスクを払わないと手に入りにくいものである気がします。
別の方法で信用を担保する方法としては、アドボカシー・マーケティングも同様の解釈が出来るかと思います。

ちなみにこの「信用」というのは現代における一つのキーワードで、これはマスメディアとブログなどのCGMの違いにも同様のことが言えます。
一時期マスメディアとブログで「情報の信頼性」はどちらが高いのか、というような議論がなされたように記憶していますが、
そもそも一口に「情報の信頼性」と言ってもここには「信憑度」と「信用度」の2種類が存在していたはずです。
マスメディアは確かな情報ソースから独自に取材をするという意味で「信憑度」は高いですが、色々なしがらみの中で「信用度」は下がる傾向にあります。
一方、ブログは個人の主観で情報ソースを当たり、嘘の情報である可能性も否めないため「信憑度」は低くなりますが、個人の利益に絡むことが少ないので「信用度」は高くなります。
これからの広告・マーケティングには「信用度」を高めていく必要があるのだと感じます。

2.ネタ性でつくる話題
これも一部で言われていますが、web上、特に現代の日本におけるwebではネタ性の広まりが非常に早いことが知られています。
このことは電通も2007-2008の消費トレンドを表すものとして発表しています。
これを用いて消費に繋げた事例としては、草彅剛が逮捕された際の「裸になって何が悪いTシャツ」などが上げられるでしょう。
一種の炎上マーケティングとも言えるかもしれません。

今回の場合も、広告の文章それ自体をネタとして消費出来る、アドマンさんの言葉をお借りすれば「突っ込みどころ」を残してあるのがポイントとなっています。
実際はてブで話題になった要因もここですね。

3.自分で確かめるための行動喚起
デジタル化されるものはすべてタダになる。」と言われる時代、デジタル化されないものでお金を儲ける方法が、今後より重要になってくると考えられます。
その一つの答えが、デジタル化されない、実際の人・物の移動ではないでしょうか。
実際に今webサービスで儲かっているものは、ECサイトや旅行サイトがほとんどです。

TSUTAYAを経営するCCCも、先日「T-TRAVEL」という旅行サイトを立ち上げました。
このサイトでは「“エンターテインメント”をテーマとした旅行商品」を扱うほか、マラソンやベリーダンスなどを組み合わせた体験型オリジナルツアーも提供するそうです。
今までコンテンツの流通を扱ってきたCCCが実際の移動に関わるというのは、この方向性を強く暗示している気がします。

このような流れの中で、広告もこれまで以上に人の行動を喚起する広告手法が重要性を増してくるでしょう。
現在一つ確立されている手法としては、広告で人の「知りたい」欲求を喚起し、答えを行動の先に用意するという手法があると思います。
分かりやすい例としては、「続きはwebで」「答えは封筒の中に」などがそれに当たりますね。

今回の赤坂もつ千の広告もこれと同じ効果をもたらしているように感じます。
もつ千の広告で印象的であるのはその描写がかなり細かいことです。
例えば「そんなに気さくでもないスタッフが真顔でお待ちしております」や「狭くて落ち着かない店内」などは店に行くことで確認のしようがある項目であると言えます。
つまり、自分のお店を広告で卑下することで、それが事実であるかどうかをユーザーが「知りたく」なるわけです。
「行かないと分からない」から、ユーザーはお店に足を運んで事実を確かめる。
これはぐるなび等の来店目的の広告媒体としては、非常に重要な要素です。

4.期待値調整
さらに「お店の卑下」はある種の期待値調整効果をもたらします。
期待値調整は、「ユーザーは、抱いていた期待に対して結果が大きいほど満足し、結果が期待ほどでない場合に不満を抱く」という前提から、最初にユーザーに与える期待値を適切にすることでより大きな満足感を与えるというテクニックです。
コンサルや、営業の人なんかがよく使う手法だった気がします(たぶん)。

普通の広告においても、あまりに実際のものよりも良く見せすぎると逆に売れないということがあるそうです。
ユーザー側として考えれば、商品の現物を見た時に、広告を見て期待していたものよりも劣っているなら買わないのは当然ですよね。
今回の場合は広告で(ネタとしてではあるものの)お店を良く見せるということをしていませんから、少なくとも期待値を下回ることは無さそうです。
例え同じサービスレベルであっても、行ってみて「期待したほどじゃなかった」と「案外いいお店じゃん」では印象は変わってくるでしょう。
そしてこの差は、「レビュー」という形でweb上で感想をシェアできる現代においては、天と地ほどの差が生まれることになるのです。

5.根幹となる商品・サービス
でも、はてブのコメントを見たところ、実はこのお店普通に安くて旨い繁盛店らしいんですね。

ぐるなびやHotPepperのような、販売促進に近いタイプの媒体は、ややもするとお店にとって「クセ」になり、その媒体が無いと集客出来ないという状況に陥りがちです。
この状況を打破するためには、一度クーポンで集客した後は、常連さんになってもらうしかありません。
そして常連になってもらうためには、商品・サービスがしっかりしていないとダメなのです。
結局ここに戻るのかという気がしないでもないですが、やはり商品・サービスがしっかりしているからこそ出来るマーケティングなのですね。

以上見てきたように、赤坂もつ千の広告にはいろんなヒントが隠されている気がします。
一体どうやってこんなマーケティング手法にたどり着いたんでしょうか。
それを確かめるには、実際にお店に足を運んで聞いてみるのが一番かもしれません(笑)

0 件のコメント:

コメントを投稿