2010年2月20日土曜日

企業の「人間性」という観点から、ソーシャルメディアマーケティングを解釈してみる

今週の月曜日に「ソーシャルメディアマーケティング研究会」という、小さな勉強会が開催されました。
この会を主催しているのが@Ihayatoことイケダハヤトさん。
彼はお若いながらもソーシャルメディア領域に大変詳しく、そのブログで書かれる海外事情や考え方にいつも学ばせて頂いています。
僕も最近仲良くさせて頂いておりこの会にも出席したのですが、イケダさんも書いているように、会の中で「ソーシャルメディアマーケティングとは何か」という根本的な問いが話題に上りました。
僕もこれについては常々考えていたので、今回は僕の考えるソーシャルメディアマーケティングについて、簡単に書きたいと思います。

話は、戦後の復興期・高度経済成長期のころに戻ります。
この頃、人々が願うのは貧しさから抜け出すことでした。
消費者にとっては、物を買って生活が豊かになることが幸せでした。
だから、企業が物を売って人を豊かにすることは、そのこと自体が社会貢献だったと思うのです。
この頃以前に作られた企業はその理念も、自社の商品を売って広めることで社会を豊かにする、というものが多い気がします。

それが70年代、80年代になってくると人々が物を持っているのは当たり前になってきます。
そんな中で企業が物を売るためにはより良いものを作らなくてはなりません。
そしてそれが今までのものより、或いは他社のものより良いことを示すためにマス広告が活躍しました。
広告は企業の武器として活躍しましたが、その反面、一方的な企業のメッセージだけが押し出され、消費者の慣れとともに邪魔な存在へと成り下がってゆきます。

また効率性と収益性を追い求める中で、企業はいつからか人間味を失ってゆきました。
例えば何か失敗があっても自分の言葉で謝ることはせず、原稿に書かれた「遺憾に思います」という言葉とともにカメラに対して頭を下げるだけ。
このように「企業」という存在が消費者からだんだんと遠くなっていったのだと思うのです。

以上の流れの中で、人々が企業に対してまず「信用しない」という姿勢で接するようになっているのが現代なのではないでしょうか。
元々は社会に貢献するために生まれたはずの企業ですが、この事がいろいろなところに綻びを生み出しているように思います。
例えば数年前からCSRが流行しているのは、戦後とは違い、企業が消費者にものを売ることが「社会貢献」にならなくなったからであると言えるでしょう。
「社会起業」や「ソーシャルビジネス」という言葉がしきりに叫ばれるのも同じ理由だと思います。
またボランティアや寄付が最近また注目されるようになったり、「プロボノ」という概念が出てきたのは、働く側(雇用者・従業員)としても、社会に貢献しないような働き方が個人の充足感を満たせなくなっているからではないでしょうか。

そしてその波は、当然マーケティングにも押し寄せました。
近年、1to1マーケティング、パーミションマーケティング、アドボカシーマーケティング、コーズマーケティングなど、数々のマーケティング手法が輸入されています。
僕は、これらの背後に流れる考えは、みな共通しているのではないかと思うのです。
それが、人間らしさ、あるいはHumanityです。
きっとマーケティングの分野においても、企業がもっと人間味を取り戻し、消費者に対してもひとりの人間として接することが求められているのです。

例えば、チラシで「10%OFF」と書かれて200円引きになったものと、大阪のお土産屋さんでオバチャンが「お兄ちゃん頑張ってるからまけてあげるよ」と言われて引かれた200円だったらどちらが嬉しいか、どちらが心に残るかということだと思うのです。
これは間違いなく後者でしょう。
自分のことを一人の人間として扱ってくれた時の方が、「マス」を対象として均等に扱われた時よりも心に残るのは明らかです。
ちなみに前述の大阪の話は僕が学生の頃の実話で、この時同じ「値引き」や「おまけ」であっても消費者に与えるイメージはまるで変わってくるのだと感動したことを覚えています。
これが出来るか出来ないかは、顧客をリピートさせるという視点でも非常に重要です。
よく既存顧客を維持する方が、新規顧客を獲得するよりも難しいという話がありますが、その為には企業に対して信頼性を持ってもらう必要があるわけです。


僕は、以上のような文脈でソーシャルメディアマーケティングも解釈すべきであると思っています。
ソーシャルメディアを使ったマーケティングは「対話」や「関係性づくり」が目的だという話をよく聞きます(勿論そう考えない方も居ます)。
しかしこの「対話」や「関係性」のコアとなる部分は、「企業は信用しない」と殻に閉じこもっている消費者の殻を破り、「消費者に信用してもらうこと」なのではないでしょうか。
人と人とがつながるソーシャルメディアが、人と企業をつなぐ為にも使われる、というのは非常に納得感があります。

ソーシャルメディアの中でも現在注目されているtwitterでは、事例が増えるにつれて、botなどを使うのではなく担当者が一人の人間として呟く、という使い方が増えてきているように思います。
中でもフランクに消費者と会話するような企業アカウントを、これまでのお硬い企業の公式(硬式)アカウントに対して、一部では「軟式アカウント」と呼ばれ始めています。
これはすぐに売上に繋がるかと言えばほとんどの場合そうではありません。
まさに、「消費者に信用してもらうこと」を目的としてtwitterを活用している事例です。
軟式アカウントの柔軟な人間性は、非常に興味深く、可能性がある気が個人的にはするのです。

確かに現段階では、大企業の中でソーシャルメディアを使っていくためには、これまで示したような「人間性」などという曖昧な理由では難しいかもしれません。
売上目標などの明確な理由が無ければ、会社としての許可が下しにくいという意見もあるでしょう。
また「ソーシャルメディア」という定義もまだ人によって違ったり、使うサービスによっても戦略が全く変わるなど、理解しにくい側面があることも否めません。
しかしそれでも、ソーシャルメディアの利用を検討する最には、そんな企業の人間性の部分を考えてみてもいいんじゃないかと思うのです。
いまソーシャルメディアの利用を検討している方には、是非そんなことも考えて、より人間らしい方法でソーシャルメディアを利用して頂けることを願っています。

2/22追記
「人間性」を企業が取り込む時に、twitterがなぜ役に立つのかを別エントリで追記しました。

2 件のコメント:

  1. はじめまして、永島と申します。
    記事を拝見し、非常に共感をいたしました。

    >人と人とがつながるソーシャルメディアが、人と企業をつ
    >なぐ為にも使われる、というのは非常に納得感があります。
    こちらのパートに特に共感をしました。
    消費者が企業からの一方通行のメッセージを求めていない中、ソーシャルメディアに人として参加をする事で、消費者と企業が人と人として繋がる。

    これからは、SMを介し一層人と人としての繋がりが求められていくのではないでしょうか。

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  2. コメント頂戴し、有難うございます!

    個人的にはいまのソーシャルメディアっていうのはまだ移行の途中段階だと思っております。
    最初は1企業に1つのウェブサイトが出来、その後ブログで1人に1つのサイトが出来た。
    今ソーシャルメディアによって一人ひとりのサイトが繋がっていますが、次は人と企業、企業と企業も繋がりを持ち始めるんじゃないか、そんなことを考えています。

    ちなみにその後は1つのモノに対して1つのサイトが出来、それもコネクトされるんじゃないかと予想しております。

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