2009年8月30日日曜日

これからのビジネスモデル、Freemium(フリーミアム)について考えてみる

以前、TechCrunchに「ロングテール」のアンダーソンが提唱する直感に反したオンラインメディア料金体系という記事が掲載されました。
また7月7日には、そのアンダーソンの最新刊"Free: The Future of a Radical Price"(以下"Free”)が発売になりました。
個人的には、Freemiumを含む、無料化の波というのはこれからの時代において非常に重要になってくるであろうと感じています。
そこで今回は、Freemiumを中心に無料化の流れについて考えてみたいと思います。

Freemiumモデルとは、Free+Premium、つまり無料版と付加価値の高い有料版を組み合わせたサービスモデルのことを指します。
この概念自体は2006年からあり、ベンチャー投資家のFred Wilsonが提唱したとのこと。
Wikipediaの説明を読むに、当時は広告モデルも含んでいたようですが、今は別のものとして語られることが多いように思います。
それが今、webでの無料モデルが壊れかかっている時期とアンダーソンが"Free"を出すタイミングが重なり、再注目されているという状況です。

ではこのFreemiumモデルは、これまでのビジネスモデルと比較するとどんなモデルに近いのでしょうか。
無料と有料という意味では、カミソリの柄の部分を無料で配り、替え刃の販売で後からコストを回収するというカミソリ型のビジネスモデルと比較して論じられることが多いようです。
実際、"Free"の予告編とも言えるWiredの特集でアンダーソンは、ジレット社の事例を皮切りに無料経済の話を始めています。
このモデルのキモは、一度カミソリの柄を買うとそれに合う同社の替え刃を買わなくてはいけない、というところにあります。
つまり、最初にハードが決定されてしまうことにより顧客を囲い込むことが出来、その後も継続的に収益が生み出されることになるのです。
他にも、コピー機やゲーム機、運用・メンテナンスで儲けるタイプのシステム開発やエレベーターなどがこのモデルに当てはまると言えるでしょう。

しかしFreemiumモデルは必ずしもハードにロックインされて後の収益が生まれるというわけではありません。
個人的にFreemiumは、『ザ・プロフィット』によるところの「製品ピラミッドモデル」の特殊なパターンとして理解した方が分かりやすい気がします。

製品ピラミッドモデルとは、ある製品カテゴリにおいて、一つの企業が顧客ごとに製品を分け、ピラミッドのように段階的なレベルを設定するモデルを言います。
ピラミッドの図を想像しても分かるように、最下層にあたる最も価格の低い製品が大量に販売され、頂上にあたる最も価格の高い製品は少量販売されます。
この時、最も利益を生み出すのは頂上にあたる高付加価値製品になります。

では、何故ピラミッドの底辺部分の製品が必要になるのでしょうか。
これを理解するため、まずは『ザ・プロフィット』より、製品ピラミッドモデルをバービー人形の例で解説した部分を抜き出します。
バービー人形は、20ドルとか30ドルとかで売られている。他社はこの低価格市場には簡単に参入できる。そこで必要なのが防火壁(ファイアウォール)だ。他社の追随を防ぐために、10ドルのバービー人形を売り出して廉価市場への他社の参入を封じ込める。ここではほとんど利益は上がらないが、他社が自社の顧客との関係を結ぶ道を塞ぐことはできる。それに、最初は10ドルの人形しか買わなかった顧客も、やがてはアクセサリーや他の人形が欲しくなるものだ。その部分ではそれなりの利益が上がる。 しかし、(バービーを販売している)マテルはさらに本当の意味での成功を収めるために、廉価市場とは対極的な方向にも目を向けた。そして、登場したのが100ドル、200ドルの市場だ。
重要なポイントはずばり「防火壁」。
他社が追随出来ないような廉価でエントリー製品を提供することにより、他社への参入障壁を高くすることが出来ます。
さらに付け加えると、廉価製品は顧客を集める役割も担っています。
廉価製品で集客し、かつ他社参入を防ぎつつ、高付加価値製品で利益を生み出すというのがこのモデルの特徴と言えるでしょう。
(この考え方は、フロントエンド商品/バックエンド商品という言い方もされるようです)
このモデルを利用しているのは、人形以外にも、自動車、腕時計、クレジットカード、最近ではiPodなんかが思い当たりますね。

Freemiumモデルの場合、上記の「他社の追随出来ないような廉価」が無料になっているというわけです。
ただの廉価よりも無料の方が顧客に対するインパクトは強いはずですから、通常の製品ピラミッドモデル以上に他社にとっての参入障壁が高くなります。
また、そのインパクトから、無料化は集客としても非常に強い手段です。
Googleが、他社が有料で提供しているようなサービスを無料で提供して話題を集めたのは記憶に新しいですよね。

このFreemiumモデルは、今や様々なwebサービスに採用されています。
その価格やFreemium Rate(提供された有料サービスに対する無料サービスの比率)が正しいかどうかは別として、Yahoo!、mixi、はてな等、国内の主要なwebサービスの多くがFreemiumモデルを採用していると言えます。
一時期「無料モデルは終わった」ということを言う人たちが居ましたが、僕はそうは思いません。
「とりあえず無料にしてみる」というブームは去りつつありますが、それは無料化が戦略として見直されているからこそです。

マスメディアのビジネスモデルが崩壊しかけている今、新聞社ではwebへの記事の無料提供をやめて有料化しようという声が上がっています。
しかし以前こちらのエントリでも書いたように、web上にはブロガーのように無料で文字を書く人が大勢居ます。
web上のコンテンツとしてこれと争うためには、有料と無料の丁度良いバランスを見極めなければなりません。
今後新聞社などの既存のメディア企業がいかにこのFreemiumモデルを使っていくかがポイントとなりそうです。




                   ≫Freemiumモデルについての詳細を読む

1 件のコメント:

  1. コメント追記。
    下記の記事の見方で見れば、確かにロックインされると捉えることも出来そうですね。
    http://www.defermat.com/journal/2009/000560.php

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